CRUSTACEA「GARDEN」(梅田HEPホール)を観劇。
演出・振付・構成:濱谷由美子 ダンス:椙本雅子/濱谷由美子 作曲:S・R・G(MASATOSHI UENO) 衣裳:橋村薫 VJ:AKARI TV*1 照明:辻野隆之 音響:松田充博
CRUSTACEAの「GARDEN」を梅田HEP HALLで見た。今年の春横浜ソロ&デュオコンペティションでナショナル協議員賞を受賞した濱谷由美子の受賞後最初の新作であるとともにHEPHALLがスタートさせるダンス企画「Dance expression」の最初の公演でもある。
会場は壁、床ともに純白の空間。客席の前には水のないプールを思わせるような装置というか、空間が作られている。中央部分が矩形に切り取られて一段低く、周囲の部分はダンサーが腰を掛けられるぐらい高くなっていて、その全体がダンサーのアクティングエリアとなっている。
横浜ソロ&デュオで上演した「SPIN」はシンプルなリズムをきざむ音楽に乗せて、限界を超えて踊り続けるというコンセプトの作品で、今回の新作「GARDEN」もその延長線上にある。全体で4部構成になっているが、そのうち最後のパートがほぼ「SPIN」を踏襲している。
全体としては最初静かなミニマルな動きを主体とする振付からはじまり、舞台が進行していくにつれて、最後のクライマックス部分に向けて、動きの激しさがクレッシェンドしていくような構造なのだが、前半部も単に最後の見せ場に向けての導入部というのにとどまらず2人のダンサーの配置と音楽、映像とのシンクロによって、面白く見せていたことに感心させられた。
前回の本公演の「R」では濱谷の作品としては初めて、映像などのビジュアルが本格的に使われたが、ビジュアル的な部分とダンスの方向性が離反しあうようなところがあり、全体としてはややアンバランスな印象が否めなかった。今回はそういうことはなく、テイストに一定の調和が保たれていたし、なかでも中盤のパートでダンサーの椙本雅子が舞台奥に立って、ゆっくりとした動きをして、照明がそれをシルエットとして見せ、それに奥の白壁に映像が映しだされている部分などビジュアル的な美しさが際立って忘れがたい場面がいくつかあって、衣装や映像の色使いの鮮やかさとともに鮮烈な印象を残した。
ただ、この作品の本領は後半部分にある。3つ目のパートでは天井からロープが降りてきて、そこに2人がぶらさがって回転したり、勢いをつけてスイングしたりするのだが、それは例えばH・アール・カオスがロープ技法を使うようなきれいに動きがシンクロしていくようなものとはほど遠い。言葉は悪いがどこかもがき苦しんでいるような動きなのである。
さらに最後のパートでは軽快にリズムを刻んでいく音楽に合わせて、激しい振付に合わせてダンスが踊られるのだが、「振付」が彼女らが踊れる身体強度を超えた負荷のかかるものに設定されているために実際に身体によってトレース可能な動きと仮想上のこう動くという動きの間にある種の乖離(ぶれのようなもの)が生まれる。そこで偶発的でありながら、必然的に生まれてくる制御不可能な動きはきわめてスリリングなものといえた。
伝統的な振付観からすればこれは「踊れていない、下手なダンス」ということにもなりかねないところだが、それを確信犯として行っているのがこの作品のコンセプトの面白さだ。例えばこの作品を踊り続ければ次第に動き自体はこの日見た以上に動けるようになるはずだが、その場合もその分、動きの強度が意図的に高められることによって、どこかで限界にぶち当たり、動き自体が制御可能なレベルに洗練されることはなく、完成されていくこともない。
つまり、永遠に完成しないことで、常に制御不能なノイズ的身体を見せ続けるダンスが「GARDEN」なのだ。この作品を見ているとその未完成のなかでもがき続ける有様はこれまで、そしてこれからももがき続けるCRUSTACEAの自画像のようにも見えてくるし、少し視線を広げれば私たち人間が生きているということの縮図のようにも思われてきたりもするのである。