下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

Dance Box Selection 16@アートシアターdB

 Dance Box Selection 16(アートシアターdB)を観劇。

佐藤健大郎『誰の空』
KIKIKIKIKIKI『どんどん駄目になってゆく』
南弓子『耳とミーとヒー』
山田知美『駄駄』

大阪のコンテンポラリーダンスの拠点であるアートシアターdBのステップアップ企画の第2ステップがDance Box Selectionである。最初のステップであるDance Circusの参加者から選ばれた4組がそれぞれ20分の作品を上演する。その意味でここに選ばれた4組はいずれも現在の関西のコンテンポラリーダンスの作り手のなかで、次世代を担う存在として期待されている人たちばかりで、レベルもそれなりに高かったのであるが、この日はまずなんといっても松山から参加した山田知美のソロダンスに圧倒された。
 彼女のダンスはDance Box Selectionに選ばれるきっかけとなった昨年9月のDance Circus*1
でも面白く、注目してはいたのだが今回のダンスはさらにそこから別次元にジャンプした感があり、「なんなんだこれは」というとてつもなく凄いものを見せられた時にだけ感じるような稀な驚きに満ちたもので、少なくともダンサーとしては「今もっとも注目すべき人」のひとりに数えられると思う。
 その動きの特徴は一言でいえば音楽に合わせて身体全体を細かく、激しく振動させるというもので、2005年の「踊りに行くぜ!!」で実質的なデビューをして以降、その方向性は基本的には変わらないのだが、この日見た舞台ではRPGのゲームに例えるならばレベルが2,3段階は上がっていたのではないか。まず、最初の場面で体のなかで頭というか顔の部分を正面を向いたままで左右に激しく振り始めるのだが、恐ろしいことにそのあまりのスピードに顔の輪郭が肉眼では追うことができなくなって、いわば虎バター状態になってまるでフランシスコ・ベーコンの絵画のようにゆがんで見えてきさえするのだ。
 その小刻みで激しい振動はやがて、ある時は手首だけ、ある時は足首だけという風に身体の小部分に伝導していく。この『駄駄』という作品はホーミー系の音楽に乗せて、身体の各部分をそれぞれ小刻みに振るわせるという非常にシンプルな構造のもので、これだけを書いたのではそれがどうして面白いのかということについてまったくイメージがわかないと思うが、それが実際に彼女の身体の動きで実際に生で見せられてみると、そこから目が離せなくなる。
 コンテンポラリーダンスに多少なりとも詳しい人ならばすぐにそういう種類の振動・痙攣系の動きのダンスなら最近の流行でもあるし、見たことがあるよと思うであろうが、彼女のはそういうよく見る類のものと比べると数段次元が違う。彼女を見ていて松田正隆が以前にマレビトの会で上演した「島式振動器官」という舞台の表題を連想したのだが、山田はまさにこの舞台において振動器官そのもので、見ていると身体の輪郭がなくなって、リゾームと化し*2、そのまま虚空に溶けていくかのように思わせるのだ。
 山田のダンスが現在のコンテンポラリーダンスのなかでも特異に刺激的なのはコンテンポラリーダンスにはダンステクニックをあまり使わないミニマルなもの*3と激しい身体的な強度をともなうもの*4があるが、山田のダンスはミニマルでありながら激しい身体強度を持つというこのまったく方向性の異なる2つのダンスの傾向を合わせ持っていることだ。このことは以前に見た彼女の舞台ではそれほど露わではなかったが、今回見たこの作品では前のように身体全体を激しく揺らすというだけでなく、その振動させていく部分を手先だけなどとある時には限定して、それでもそれを舞台上で普通の動きではない特権的な動きとして見られるに値するものとして提示して、ちゃんと見せてしまうというところにこの日の作品の驚異はあった。
 おそらく、大空間ではなく、この日のように比較的に小さい空間であれば彼女のダンスは世界中どこに持っていっても通用するし、「これはいったいなんなんだ」という驚きを見る側に起こさせることが可能なものだと思うのだが、惜しむらくはおそらくこの彼女の動きは映像ではフォローできないだろうということだ。
 動きが小さすぎ、速すぎて、映像ではまるで幽霊のようにぼんやりとしか映らないのではないかと思われる。これはおそらく実際に自分の目で生で見ないと分からない類のもので、こういうものが存在するがゆえに舞台を生で見るということの醍醐味というのがあるのではあるが、彼女に聞いてみると「地元の松山でさえ公演をしたことがない」ということらしく、「踊ることのできるところがほかにないか探している」ということだった。いろんな人にぜひとも見てもらいたいダンサーであるだけに、特に「踊りに行くぜ!!」の時にも彼女が踊ったのは松山と大阪だけで関東では踊ったことがないらしいので首都圏方面でダンス企画を担当している人で彼女を呼んでみたいという奇特な人がだれか現れないだろうか。こと彼女のダンスに関してはいくら筆をつくしても百聞は一見にしかずとしかいいようがないので、物書きとして無力感を感じざるをえないのだが。(続く) 
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*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060913

*2:大上段に振りかぶった物言いだということを承知で言えば、フォーサイスのダンスが脱構築のダンスならば山田のダンスはリゾーム的なダンスという風に言いたくなるところだ

*3:典型的なのは手塚夏子であろう

*4:例えば東野祥子、あるいは方向性は違うがニブロールもここに入れてもいいかもしれない