下北沢通信

中西理の下北沢通信

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小野寺修二×首藤康之プロデュース「空白に落ちた男」@ベニサンピット

小野寺修二×首藤康之*1プロデュース「空白に落ちた男」(ベニサンピット)を観劇。

「空白に落ちた男」@ベニサンピット
出演: 作・構成・演出・振付:小野寺修二 
音楽:coba 
出演:首藤康之/梶原暁子/藤田桃子/丸山和彰/小野寺修二

「水と油」の活動を休止して文化庁の派遣研修生としてパリに遊学していた小野寺修二。小野寺が休んでいる間、同じく「水と油」の同士だった高橋淳(じゅんじゅん)の方は横浜ソロ×デュオ<competition>での入選、「踊りにいくぜ!!」への参加など主としてコンテンポラリーダンスの畑での活発な活動が目立っていたため、日本をしばらく留守にして充電中だった小野寺がどんな風に活動を再開するかに注目していたのだが、注目の再開第一弾の舞台はバレエダンサー、首藤康之との共演によるロングラン公演という少しびっくりさせられる企画であった。
 一方、この公演は世間的にはバレエダンサー、首藤康之の新境地への挑戦という風に捉えられることになるのだろうが、東京バレエ団の看板だった首藤康之が2004年にバレエ団を退団*2したことの目的が、マシュー・ボーンの「スワン・レイク」のような外部の舞台への出演もそうであろうが、こうしたバレエ以外の舞台にかかわるということもあるのかもしれない。
 それにしても驚かされたのは作・構成・演出・振付がいずれも小野寺修二の手により、5人の出演者のひとりとして小野寺本人もこの舞台に出演しているといとがあるとはいえ、予想以上にこの舞台が「水と油」のテイストと近かったことだ。もっとも、この公演には小野寺だけでなく、水と油の僚友である藤田桃子も出演しており、そうだということになるとこれは「水と油」と銘打ってはいなくても、そのメンバーの半分はかかわっているわけだし、似ていることは不思議でもなんでもないと考えられるかもしれないが、水と油の最大の魅力のひとつはそれを構成する4人のメンバーの絶妙なアンサンブルにあり、首藤のようなスターダンサーを舞台の中心にすえたのではそうした特徴を維持するのは難しいのではないかと思っていたからだ。
 ところが実際には舞台はソロ=首藤康之、アンサンブル=残りのメンバーというようなものではなくて、首藤もアンサンブルの一員としての役割を果たしており、もちろん今回大勢観客席に来ていると思われるバレエダンサー、首藤康之のファンのために首藤のダンスをたっぷり見せる見せ場を舞台の後半部分に用意するなど、サービス精神は発揮しながらも、基本的には首藤にもほかの4人のパフォーマーと同等にアンサンブルの役割を演じさせながら、そこで俳優としての演技やバレエではない動きの連鎖によるダンス(今回はダンスの要素がやや強いが基本的にはダンスパントマイム)などでこれまで舞台の中ではあまり見ることのできなかったすかした感じやとぼけた表情など新たな魅力が引き出されていた。

*1:http://ticket.rakuten.co.jp/kuhaku/

*2:現在も特別団員として出演はしている