読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091015-OYT1T01007.htm
共同通信
http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009101501000740.html
「劇作家・演出家の平田オリザが内閣官房参与に就任」という報道に仰天。というのも来週23日に平田オリザのレクチャー*1を予定していたからなんだけれど、報道を耳にした最初に印象は「あ、どうしようセミネール」というものだった。もちろん、レクチャーでやるのはあくまで平田オリザの演劇についてなので彼のそのほかの活動についてかかわるものではないのだが、時期が時期だけになにか勘ぐられやしないといらぬ心配もしたのだが、それは余計なお世話。よくよく考えると平田にとっては今後いろいろ大変なことになりそうだが、日本の文化行政をもう少しましなものに変えていくにはこれ以上の適任はないではないかと考えたからだ。
最初はそもそも内閣官房参与というのがどのような権限と役割を持つものなのかよく分からなかったのだが、共同通信によれば平田の場合は「文化政策をめぐる政府の情報発信について鳩山由紀夫首相らへ助言する」というものらしい。最初は単なるアドバイザー的なものかなとも考えたのだが、この役職は有名な例としては現在は参議院議員である中山恭子が拉致問題担当として務めたことで知られ、だとすると演劇活動や大学教授を続けながら片手間にともいかなそうで、それはどうするんだろうという疑問はあるのだけれど*2、どうするんだろうということもある。権限がよく分からないこともあり、最初はなぜ過去に民間人が就任したこともあった文化庁長官でなくて、内閣官房参与なのだろうと考えたのだけれど、よく考えてみれば脱官僚を標榜している鳩山政権でもあるし、文化庁長官などとして組織の中に入れられてしまうよりは日本の役人を相手にする場合には部外者であり、かつ権力中枢に近いところで自由に活動する方がより根本的な改革が可能ではないかという気がしてきた。
以前から演劇の内部からも外部からも彼はさまざまな批判を受けてきたということがあるし、私の知人でさえも「やはり権力志向だったんですね」というのがニュースを知らせた最初の反応だったのだけれど、どうやら鳩山総理自身とも親交が深いようなのだから、本当に権力志向が強いなら、こんなところで火中の栗を拾うような余計な真似はせずに選挙に出てただろう。肩を持つわけではないけれど、文化庁の審議委員などは務めていたとはいえ、自民党政権だったらこういう風に政府の役職に就くことなどなかったはず。これはもちろん、ネットで一部批判されているように平田が左翼思想だからではなく、脱官僚を標榜している民主党を中心とする政権ならこれまでの既得権限にがちがちになってきていた硬直化した文化行政にメスを入れる千載一遇の好機であるということがいえるかもしれない。
おそらく意識しているのはミッテラン政権の時に若くしてフランスの文化大臣をつとめ若いアーティストの支援、フランス文化の輸出を手掛けたジャック・ラング*3ではないか。もちろん、ラングの改革の功罪というのは現在のフランスでは顕在化しているから、そのまま真似るのではないと思うけれども、ここ数年はフランスの文化関係者ともっとも親密な付き合いをしているようだから、フランスのことは当然意識しているだろう。そして、日本にもしジャック・ラングのようになりえる人材がいるとすればそれは平田オリザがもっとも近い資質を持つ人だと思う。最低限でも、平田が影響力を行使できていたら、新国立劇場の芸術監督問題のようなことが起こった時にはもう少しましな対応をしているはず。もちろん、鳩山政権がどこまで脱官僚を実効力のあるものとしていけるかということはまだ未知数でもあり、その中で平田がなにができるのかは分からないけれど、お飾りじゃないことは間違いないだろうと思うので今後どんなことが起こるかは楽しみである。
*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20091023