【振付・構成・演出】 隅地茉歩
【出演】 セレノグラフィカ(阿比留修一 隅地茉歩)
【技術演出】 岩村源太
【音響】 小早川保隆
【宣伝美術】 納谷衣美
上念省三氏のダンス企画「ダンスの時間」の一部として上演されたダンスデュオ「セレノグラフィカ」の公演。毎日新聞京都支社などで上演された3本立て公演「10099101」とアートシアターdB神戸の杮落とし公演で上演された「裏日記」を加えた小品4本を再演。さらにこの日は本編に引き続き忘年会と称して、簡単な打ち上げのようなものも劇場内で開かれ、その中では隅地茉歩振付の「ファスナハト」(出演・花沙+升田学)も上演された。
セレノグラフィカの2人には申し訳ないのだが、実はこの日見た5本のなかでは花沙と升田学による「ファスナハト」が一番よかった。この作品はこの日初めて見たというわけではなく、この2人によるものを新大阪にあったアートシアターdBの小空間やこのロクソドンタブラックでも以前見たことがあったし、セレノグラフィカの阿比留修一・隅地茉歩によるオリジナル版を神戸学院大学で見たことがあるのだが、それはいずれも小さな空間とはいえ、椅子も用意され、劇場空間での作品としての上演であった。それに対して、この日は床に車座で皆がすわり、ダンサーに近いインティメート(親密)な空間での上演となったのだが、そういう作品との近さがこの作品を一層魅力的なものとしていたというのは新たな発見だった。花沙と升田学は今年ともにセレノグラフィカの本公演にも出演しており、残念ながら体調を崩し私は見ることができなかったのだが、そこで時間を共有したことなどがきっかけとなり、デュオとしてのパートナリング、あうんの呼吸が一層向上したことも「ファスナハト」がより魅力的なものとなった理由として挙げられるかもしれない。いずれにせよ、この2人のよる次の作品も見たいと思わせられたのである。
新鮮な魅力を見せた花沙・升田に対し、セレノグラフィカの2人は倦怠期の夫婦を思わせるような関係性で不思議な世界を展開した。デュオというのは活動を継続し続けることが、難しい形態だ。東京と比べると比較的、継続的に活動をし続けているデュオが多かった関西でもCRUSTACEA(濱谷由美子、椙本雅子)、砂連尾理+寺田みさこが活動休止状態、カンパニーとしての活動の一部ではあるけれど、一時多数のデュオ作品を製作していたヤザキタケシ+松本芽紅見(アローダンスコミュニケーション)、坂本公成+森裕子(Monochrome circus)も活動の形態の軸足をデュオ作品から他の形態に移しつつある。そのなかで現在も精力的に創作活動を続けているセレノグラフィカの活動は特筆すべきことかもしれない。
ただ、その作風には若干の変化もあるようで、今回観劇した近作4本を見て正直言って、2人がどういう方向に行こうとしているのかというのをつかみかねている。セレノグラフィカの特徴は長年、この2人でデュオを継続してきたことによる絶妙のパートナリング、阿吽の呼吸が醸し出す「間合い」の可笑しさ。細かな挙動ひとつにしても蔑にせずに練りに練られた作品作りによるムーブメントの精度の高さ。それゆえ、どの一瞬を切り取ってもその動きが既存のダンス技法のクリシェ的な身体語彙に回収されることがなく、独自性がきわめて高い、というような点にある。
身体動作の精度の高さなどは相変わらずなのだが、以前はそこはかとないおかしみなどに収れんした2人の関係性がどうにも居心地の悪さを感じさせるのが最近の作品の特徴で、3本立ての作品のうち最初の作品などは特にそうした色合いが強い。