下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

神戸アートビレッジセンター プロデュース《クロスオーバー・ザ・KAVC》「no w here」@神戸アートビレッジセンター

now here? no where?ーどこでもない、だけど、確かに今ここにある。
山本周五郎の小説『季節のない街』をモチーフに演劇・ダンス・映像がクロスオーバーする舞台作品「no w here」。東京デスロックの多田淳之介が、KIKIKIKIKIKIのきたまり、映像作家の吉光清隆ら関西のアーティストとタッグを組み、関西の出演者とKAVCで滞在制作いたします。ご期待下さい!
日時:9月11日(土) 13:00/17:00
    12日(日) 15:00
場所:KAVCホール
料金:前売/一般2000円、学生1500円 
   当日は各500円増 ※全席自由席
チケット取扱:8月22日(日)発売

クロスオーバー・ザ・KAVC『no w here』
構成・演出=多田淳之介(東京デスロック)
振付=きたまり(ダンスカンパニーKIKIKIKIKIKI)
映像・空間=吉光清隆
出演=稲森明日香、小川敦子、尾園智星、桐子カヲル、久保田智美、黒木夏海、近藤啓太郎、坂しおり、崎本実弥、高柳寛子、竹田聡支、豊田智子、豊田桃華、中島真央、西田絢音、西田セレナ、安元美帆子、渡邉裕史
間野律子(東京デスロック)、きたまり
サポートスタッフ=北嶋英理子、高橋美智子

 神戸アートビレッジセンターの制作企画で東京デスロックの演出家、多田淳之介がダンサー・振付家のきたまり、映像作家の吉光清隆と共同製作した舞台作品である。山本周五郎の小説「季節のない街」を下敷きにしたとあるが、舞台を見る限りは小説中からの言語テクストの引用はほとんどなく、作品全体のなかでそういう雰囲気が少しはあるとはいえ、ほとんど分からないといった方が正確だろう。
 舞台中央に球形の巨大なバルーンがあり、舞台はそれを中心に展開していく。東京デスロックの舞台を実際に見たことというのはまだ数えるほどしかなくて、先日きらり☆ふじみで見たばかりの「2001〜2010年宇宙の旅」のほかはいずれもこの神戸アートビレッジセンターで見た「3人いる」「演劇LOVE inKOBE」しかない。実はその3本ともスタイルは全然違っていて、共通点を探すことの方が困難なほどなのだが、ひとつだけ共通して挙げられる特徴を言えばいずれも舞台が提示していくある構造のようなものが別のなにか普遍的なものを想起させるためのトリガーのような役割を果たす、つまりメタファー(隠喩)の構造をとっているということなのである。
 実は舞台上で提示されるある構造が「世界の構造」をパラレルに写しているという関係は平田オリザの演劇の「現代口語演劇」と並ぶもうひとつの特徴で私はこれこそを「関係性の演劇」ないし「世界の写し絵としての演劇」と呼んでいたわけだが、それは例えば「バルカン動物園」という作品で舞台で描かれていたサル学研究室内での研究者同士のささいな争いが実はバルカン半島における紛争のような世界的な出来事と同形であるということを提示しているように今回、多田淳之介が上演した「no w here」も舞台上で展開される一見ダンス作品とも見まごうような抽象性をはらんだパフォーマンスが実は「世界の写し絵」となっているという構造、それがスタイルは全然異なっていても平田オリザから多田が確かに受け継いだものといえる。
 具体的にはこの舞台では役者たちが舞台に登場するとそれぞれにまず自分の名前を名乗るところからスタートする。これはただ名乗るというだけではなくて、それぞれの名前の名乗り方には固有のイントネーション、アクセントと動きが付随していて、自分で自分の名前を名乗るというだけではなくて、しばらくすると相手の名前と動きを真似し始める。つまり、この作品は通常の舞台のように物語や意味のあるまとまったセリフがあるというわけではなくて、「名前を名乗る」「それにはそれぞれ動きと調子がついている」というミニマルな記号的な要素からはじまり、そうした複数の「名前」「動き」がそれぞれの出演者によって交換可能なものとなることによって、そこから千変万化のパターンが創出される。これは言ってみれば私たちが生きているこの世界の似姿なわけだが、このミニマルな要素から生まれる万華鏡のような変化を私たちはこの舞台によって目撃させられることになるのだ。