下北沢通信

中西理の下北沢通信

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Dance Box Under the Worklight 黒子沙菜恵&宮北裕美「服をきるように さらっと振付けて踊る」@アートシアターdB神戸


振付・出演 黒子沙菜恵 宮北裕美 選曲 ヤザキタケシ

2011年9月7日(水) Open19:00 Start19:30  
料金 1、500円
場所 Art Theater dB Kobe 
JR神戸線/神戸市営地下鉄山手線「新長田」駅より徒歩8分 神戸市営地下鉄海岸線「駒ヶ林」駅より徒歩3分)


http://www.db-dancebox.org/04_sc/1109_uwl_miya/index.html

予約・問い合わせ NPO DANCE BOX
TEL : 078-646-7044 E-mail : info@db-dancebox.org 
WEB : http://www.db-dancebox.org/  
〒653-0041 神戸市長田区久保町6-1 アスタくにづか4番館4F
主催 宮北裕美/ガラパゴス楽団  共催 NPO DANCE BOX  
京都芸術センター制作支援事業

使用曲リスト

1 「Sunshine of Your Love」 "シーラカンス (劇内バンド)"
  ※映画「69 sixty nine」のサウンドトラックより
2「Sympathique」 "Pink Martini"

3「夜明けのスキャット」"由紀さおり"
  ※映画「69 sixty nine」のサウンドトラックより

4「Contrabajeando」”斉藤徹” (”アストル・ピアソラ" の作曲です)

5「悲しきバター犬」”中シゲヲ & the surfcoasters project”
  ※映画「69 sixty nine」のサウンドトラックより

6「DAY DREAM」"鎌田ジョージ"
  ※映画「69 sixty nine」のサウンドトラックより

7「Blue in Green」”Miles Davis

8「Swingin man」”Jazbeat"

9「giant on the way」”Wang inc."

 黒子沙菜恵と宮北裕美。関西ではベテランの部類に入るダンサー・振付家ではあるが、これまで音楽家、美術家など他分野のアーティストとのコラボレーションを中心に単独での活動が多かった2人が初めて共同制作による作品を作った。
 ソロの活動では例えば宮北は最近、音楽家の鈴木昭男(サウンドアーティスト)とのセッション、空っぽ「ぽんぽこりん♪」を京都で月1のペースで開催するなど即興パフォーマンスが多いし、それは舞台美術家・演出家のサカイヒロトとの共同制作による3部作を連続上演したばかりの黒子も即興で踊ることが多いのは同じ。だが、今回は「服をきるように さらっと振付けて踊る」の表題の通りに一見シンプルに見えながらも、単純に「音に合わせて即興で踊ってみました」というような場面はない。
 物語とか具象的なものはあまりこのダンスには出てこないけれど、9曲ほど用意された音楽(と無音の時間もある)がこの舞台の構造を決定していて、それぞれの音楽ごとに違うアプローチで振付がつけられているのではないかと思われてくる。それが具体的にどういうルールであるのかは場面ごとに違うので、統一されたものとして「これこれである」ということはできないのだけれど、例えばある場面では音楽のリズムに同期して、ユニゾンで踊っているのに対し、ある場面では2人の動きはバラバラで音楽とも同期(シンクロ)はしていないなど、コンテンポラリーダンスの振付構築のパターンが複数次々と登場するという意味では一種、コンテンポラリーダンスの振付の展覧会のような様相をみせてくるのだ。
 もうひとつこの作品で興味深いのは選曲で、これを自分たちがしないで振付家・ダンサーのヤザキタケシに依頼したことで、そのためこの2人が普段それぞれ踊る時には使わない曲が数多く含まれた。選ばれた曲はピアソラからシャンソンマイルス・デイビス、ロック音楽ときわめてバラエティー豊かでかつ大衆性のある選曲となっていた。ソロで踊るときには2人とも最近はともすればノイズやエレクトロニカ系のような調性やリズムがないような前衛的な曲想のもので踊ることが多いだけに例えば「Swingin man」”Jazbeat"のようなノリのいい音楽で踊るというようなことは滅多になく、こうした選曲が例えば途中の顔の表情をリズムに合わせて変えていくだけでダンスとしていく部分などそれまでの2人からは見たことがないような芸風の場面まで引っ張り出していた。
 見ていて面白いと思えたのはこの2人がやはりキャリアも長く、関西の第一線でずっと頑張ってきたという歴史を背負っていることだ。ともに米国への留学経験を持ち、その意味ではグラハムメソッドのモダンダンスやポストモダンダンスにもよく通じているはずだが、関西ではコンテンポラリーダンスがまだ定着していなかったころから活動をはじめているという共通点を持つ。だが、ダンサーとしての資質はあまり動かないで立ち尽くすような踊りを得意としてきた宮北に対し、黒子は身体の柔軟性を存分に生かしたような動きを得意としており、きわめて対照的ともいえた。
 もっとも、最近ではいろんな場でいろんな人との共同作業を通じて、宮北も激しく動き回るダンスを踊ることも多いし、一方の黒子が静謐な音楽に合わせてミニマルな動きのみで身体の変容を見せていくようなダンスにも好んで挑戦するなど、踊るダンスの傾向もクロスオーバーしてきていた。2人での共同作業に取り組むには時季をえていたのではないかと思う。
 この舞台ではそんな手だれの踊り手2人が培ってきた手管を次々に見せてくれるなかで、自然と「コンテンポラリーダンスってなになのだろう」と観客に考えさせるような仕掛けになっている。それぞれの場面がいったいどんな手法に基づいて作られているのか、その方法に対する2人のアプローチにはどんな違いがあるのかなど、思わず考えさせられることになった。それでいて、ダンス自体が「これは実験です」などという風に堅苦しくはならないのはやはり2人が魅力的なダンサーだからだろう。
 一見ラフで素朴にも見えるけれど実は緻密。しかも、可能性にあふれ、ビートルズで言えば「ホワイトアルバム」を彷彿とさせるような公演。ぜひとも再演してほしい舞台だった。