下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

渡辺源四郎商店 「エクソシストたち」 @こまばアゴラ劇場

作・演出 畑澤聖悟 音響:藤平美保子 照明:浅沼昌弘 舞台美術:山下昇平
 宣伝美術:工藤規雄(Griff) 宣伝写真・造形:山下昇平
 プロデューサー:佐藤誠 ドラマターグ・演出助手:工藤千夏
 制作:渡辺源四郎商店 舞台監督:三上晴佳、工藤良平、田守裕子
 主催・企画制作:渡辺源四郎商店 提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
 出演:
 喜多川家の人々
 工藤由佳子 :喜多川まゆみ(33)/ちづるの母
 音喜多咲子 :喜多川ちづる(11)/まゆみと敏三の子
 音喜多昭吾 :喜多川敏三(38)/まゆみの元夫、ちづるの父
 山田百次[劇団野の上]:木立昇(32)/まゆみの内縁の夫

 エクソシストたち
 斎藤手恵子[PAC]:工藤素子(58)/カミサマ
 工藤良平  :安倍藤十郎(30)/僧侶(真言密教
 牧野慶一  :城島政利(67)/神父(イエズス会
 高坂明生  :鳥谷部薫(30)/ヒーリングミュージシャン

 その他の人々
 柿崎彩香  :封馬ルリ(28)/精神科医
 三上晴佳  :村田乃々子(25)/ちづるの担任スタッフ
[あらすじ]
現代。北東北、人口30万、県庁所在地の小都市。そ の閑静な住宅地にある2階建ての家。30代の母親と 小学生の娘が生活している。娘に異変が起きたのは 2ヶ月前から。男のような声でわけのわからぬこと を口走り、卑猥な言葉を発し、母を罵倒するように なった。顔はむくみ、ひび割れ、目は真っ赤。頬は 痩せこけ、可愛かった面影はどこにもない。「悪魔 が憑いた」と判断するよりほかなかった。そして、 この日、ある異様な客たちがこの家にやって来た。 様々な能力を持った悪魔祓い(エクソシスト)たち である。悪魔祓いたちと悪魔との戦いがいま始まる のであった。

 ウィリアム・フリードキン監督による名作ホラー映画「エクソシスト」を下敷きにした弘前劇場時代の舞台「月の二階の下」を改定した作品。とはいえ2階に籠ったまま奇怪なふるまいをしているらしい娘に憑いたらしい悪魔を退治するために神父、密教僧、精神科医などが次々とやってくるという趣向はそのまま生かしながらも、それ以外の物語のディティールは大幅に変更したため、表題も「エクソシストたち」と変更したこともあり、事実上新作と考えるべきなのであろう。
 笑いのある喜劇的な場面をつなぎながら、いつもまにかシリアスかつ重大な問題に切り込んでいくのが、畑沢聖悟の得意とするパターンで、「エクソシストたち」も前半いかにもいんちきくさいエクソシストたちが大いに笑わせてくれる。弘前劇場時代の「月と二階の上」ではこのいんちきエクソシストに畑沢聖悟自身と当時畑沢の一番弟子的存在だった山田百次が出てきて笑わせるためにだったらどんな卑怯な手を使ってもいいとばかりに大いに笑わせてくれたのだが、今回は畑沢が演じた密教僧を工藤良平、ヒーリングミュージシャンを高坂明生が演じ笑いをとった。彼らは結局、悪魔のような形相で暴れてるらしい、二階の娘(音喜多咲子)の前では詐欺師同然の無能力さを露呈してすごすごと逃げ帰ってくる。
 だが、単なるホラーを下敷きにしたコメディーに終わらないのが渡辺源四郎商店=畑沢聖悟の真骨頂である。東日本大震災を物語の一部に取りいれながらも、単純に震災の悲劇を描くのではなくて、エクソッストの悪魔よりも震災の津波よりもこわい人間の心の闇を悪魔払いの物語に託して描きだしていうのだということが分かってくるからだ。
 実は一見、映画「エクソシスト」の少女のように悪魔に取り付かれたかに思われる少女の変異が実は母親によるドメスティック・バイオレンス(DV)が引き金になった神経疾患ではないのかということが、精神科医の女性(柿崎彩香)によって暗示されて、これは母(工藤由佳子)と娘の相克が原因ではないかということが明かされていく。夫とうまくいかずに外に男(山田百次)を作った妻は夫と別れて青森に引っ越し、夫のいる東北の(続く)