下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青☆組「人魚の夜」@こまばアゴラ劇場(2回目)

作・演出:吉田小夏

出演:荒井志郎、藤川修二、大西玲子、(−以上、青☆組)、小瀧万梨子(青年団)、田村元、渋谷はるか文学座)、佐々木美奈、吉田圭佑、井上裕朗

 この芝居については「もう一度見に行くべきかも」と前回観劇後のブログに書いたらなんと劇団から招待していただけるとの申し出がメールであり、この日2度目の観劇となった。以前は同じ舞台を何度も見るということはけっこうあった(というか演劇雑誌に劇評を書く場合はほとんどの場合複数回の観劇をしていた)のだが、年を取ったせいもあり、最近はそういうこともめっきり少なくなっていた。それだけに2度目の観劇は貴重な機会となった。
 前回の感想*1では「この舞台にはいくつかの大きな謎がある」と書いたのだが、もう一度見たことで疑問点がすっかり氷解した部分と結局この芝居の中では「その疑問の回答は分からないということがはっきり分かった」部分があり、それはこの「人魚の夜」という作品をもう一度考え直してみるうえで、私にとって大きな収穫だ。

「人魚の夜」にも語られないことがいくつもある。ひとつはこの芝居では葬儀のエピソードぐらいしか触れられていない母親のこと。これはどんな風に父親と結婚したのかがまずこの芝居ではいっさい語られないし、死因もよく分からない。
 もうひとつはやはり台風のなか海の方に出かけていって亡くなったという長女のこと。これもなぜ出かけたのは大きな謎のまま残される。さらに加えてもうひとつは飛び出した兄に何が起こり、父親との徹底的な対立を招いたかという詳しい事情。このことも当時の女生徒と兄との関係が少し暗示はされるもののやはりはっきりとは提示されない。

「人魚の夜」の謎として前回以上のようなことを書いたが、このうち長男(夏雄)と父親の感情的な対立はもう一度芝居を見直してみてほぼ理由が分かった。夏雄が教育実習生として父親も勤務する学校に赴任していた際に台風が来て、その際に当時女生徒だった雨宮琴子を自宅に送り届けることになった。しかし、何かの事情*2で自宅まで送り届けることができずにおそらく、2人でどこかで外泊してしまったのではないかと思われる。この不祥事を潔癖な父親は許すことができず、夏雄もそれをきっかけに家を飛び出してしまう。ざっと、そういうような事情だったのではないかと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20140112

*2:琴子は自宅に帰ることを嫌がっていた