青年団リンク ホエイ「小竹物語」@アトリエ春風舎(1回目)
「恐怖」をエンターテイメントにする怪談師たち。
「恐怖」を快感とするオーディエンス。
今日は怪談イベントのネット中継の日。
本公演は、怪談イベントをネット中継する人たちの話です。
本編中に行われる怪談イベントを実際にネット中継(ライブ配信)します。遠方にお住まいで劇場まで足をお運び頂けない方もお楽しみいただければ幸いです。
配信アドレスは@WheyTheaterにて公開いたします。
なお、怪談イベントは上演の一部ですので、上演全編を中継するわけではありません。あらかじめご了承ください。
作・演出:山田百次(ホエイ|劇団野の上)
出演:河村竜也(ホエイ|青年団) 菊池佳南(青年団|うさぎストライプ) 永山由里恵(青年団)
斉藤祐一(文学座) 成田沙織 和田華子 山田百次(ホエイ|劇団野の上)プロデュース・宣伝美術:河村竜也 制作:赤刎千久子 照明協力:井坂浩 演出助手:楠本楓心
青年団リンク ホエイ「小竹物語」にはその趣向のうえでいくつかの仕掛けがある。まず、この物語で出てくるのは怪談を語る怪談師という人々で、現在怪談イベントがネット中継されているという設定で毎回、劇中劇ならぬ「劇中怪談」が語られる。怪談師として登場するのは怪談アイドル「ふーみん」こと山本ふみか(菊池佳南)、人気急上昇の怪談蒐集家で男装の麗人系キャラ、弥勒院恍(和田華子)、このイベント「小竹物語」の主催者である西園寺楓(斉藤祐一)、イタコ見習いの佐々木ソメ(成田沙織)、少し逝ってしまっているんじゃないかと疑われる一般参加の門真結子(永山由里恵)の5人。
前半ではネット中継という設定でこの5人による怪談が語られるのだが、その模様は実際にもネットで生中継されてパソコンやスマホから見ることができる*1という仕掛けになっている*2。
前半の見所はそれぞれの演者が演じる「怪談」そのものでもあって、実は「怪談師」というのは山田百次が創作した架空の存在ではなくて、実在するものでネット検索などをしてみるとそれぞれが自分なりの様々なスタイルで、怪談語りの会などを行っているのだ。舞台ではそうした実在の怪談師のスタイルを真似ながら俳優それぞれが工夫した独自のスタイルで怪談の語りを見せてくれる。怪談の語りを見せるといってもこれは演劇の一部だからそれぞれの怪談師のスタイルを演じて見せてくれるということにもなるわけだが、こういう虚実ないまぜが入れ子状に展開していくのがこの舞台の魅力のひとつだ。
それぞれの怪談師は異なる語りのスタイルを持っている。いかにも二枚目をきどったキザっぽい語り口で男装キャラなのが弥勒院恍だが、怪談オタク的に霊的な出来事のいろいろな周辺事情にも語り自体はオーソドックスな実力派である。山本ふみかはどうやら主催者の西園寺楓と深い関係がありそうで、怪談アイドルの前には地下アイドルもやっていて、西園寺はその時からのファンであるらしい。イタコの本場、青森県から来たらしい佐々木ソメも別の意味でいわくありげ。やはり西園寺が今回のために呼んだみたいなのだが、どういう人なのかはよく分からないのだ。客席に座って階段を実際に聞いたときに一番怖かったのが永山由里恵が演じる門真結子。これは典型的な霊が乗り移ったようなトランス型の語りだが、本当に怪談師ならば一番不気味だろう。
そしてこの物語では怪談「小竹物語」のショーが終わったところでまた別の趣向の怪がはじまる。こちらは怪は怪でもモダンホラーに近いような設定なのだが、前段として登場人物たちがささいな言い合いから、多数派ゲームのようなことをはじめて不穏な空気が漂ってきたところに山田百次演じる「説明のつかないおかしな人」が登場する。これがいわゆる「現実は虚構より怖い」という種類の落ちなのか、それともこれ自体が怪異の一部なのかはここでは理屈では説明されることはないのだが、この最後の部分がこの芝居のクライマックスであるということは間違いない。
不条理の殺戮、無意識の差別、人間の猜疑心、霊的存在によるたたり……。いろんな種類の怖さを並列に並べて「どれが一番怖いですか」と問いかけているようにも見えるが、論理構造的な一貫性に欠けるところもあり、ややもやもやが残る感触も。そうした疑問を吹き飛ばすほどの山田百次の見せる狂気は一見の価値はある。
*1:怪談イベント「小竹物語」 https://www.youtube.com/watch?v=nbHPlqCOAbk
*2:とはいえ、芝居の中でも中継をネット経由で見ている人の数が5人ということで、少なすぎてやっている意味がないとの自虐的な指摘が出てくるが、中継を実際に担当している河村竜也に確かめてみたところ、実際のネット中継を見ている人たちの数も同程度らしい(笑)。