柿喰う客 『俺を縛れ!』 @下北沢本多劇場
黒歴史的娯楽大作が10年の時を超え堂々復活!荒唐無稽!笑止千万!茶番チャンバラ時代劇、ここに解禁!
幕府の大御所・徳川吉宗が大往生を遂げたことをきっかけに悪名高き将軍・徳川家重は奇妙な難題を諸大名に突きつける! 横暴な幕府にも、心を削り身を削り一途な忠義を貫き通すのは「三度の飯より主君が命」を信条とする弱小田舎大名・瀬戸際切羽詰丸!その過激な滅私奉公は、やがて天下を揺るがす大騒動に発展する!?
作・演出 中屋敷法仁
出演
永島敬三 牧田哲也 加藤ひろたか 田中穂先 宮田佳典 守谷勇人 とよだ恭兵 村松洸希
七味まゆ味 葉丸あすか 長尾友里花 淺場万矢 北村まりこ 永田紗茅
以前から知っていた俳優(玉置玲央、深谷由梨香、大村わたる)が出ておらず、七見まゆ味、葉丸あすかを除いてすっかり代替わりしてしまった感のある柿喰う客だった。主演を演じたのは以前からいた永島敬三だが、本番が終った後のアフターイベントなどを見ても現在の中心は彼なんだろうというのは分かる。
ホームページの紹介を見ると「黒歴史的娯楽大作が10年の時を超え堂々復活」ともあり、以前上演した作品の再演なのだろうが、中屋敷法仁の作家としての特徴として幅広い作風の作品が書けるというのがありながら、ここに来て作家性の強い作品ではなく、この作品を上演するというところに「娯楽(エンタメ)演劇の王道」という気概を感じた。
芝居の中で固有名詞はださないが、自虐ネタとして殺陣の「100人ぐらい斬り」の場面で主人公が「気分が出ないので相手役にも刀を持たせろ」というのに対して、「お金がないから無理だ、そういうことがしたいなら他所の芝居に出ろ」など劇団☆新感線を連想させるようなセリフを入れ込んでいる。
「チープな新感線」というところであろうか。もっともこうした痛快、ハチャメチャ時代劇のようなものは本来は本家の新感線も得意とするところであったが、最近は「常設劇場」も抱えて豪華キャストでの「いのうえ歌舞伎」的な作品が活動の主体とならざるを得ず、「俺を縛れ!」のような単純にばかばかしいものの上演頻度は完全に減ってしまっている。
柿喰う客には現在、女体シェイクスピアという活動の柱がひとつあり、そこでは娯楽要素を維持しながらも古典演劇の批評的な再構築にも取り組んでいる。
もうひとつの柱として「男優中心でどこまでも馬鹿馬鹿しく、頭の悪そうな芝居」を持ってきたのは戦略的にはありうる選択だろう。