下北沢通信

中西理の下北沢通信

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モメラス 第3回公演 利賀演劇人コンクール2017優秀演出家賞受賞作品『青い鳥 完全版』 提携@横浜STSPOT

モメラス 第3回公演 利賀演劇人コンクール2017優秀演出家賞受賞作品『青い鳥 完全版』 提携@横浜STSPOT

2018年6月20日(水)-7月1日(日)

”貧しい家に生まれた兄弟チルチルとミチルは、幸福の青い鳥を求めて冒険の旅へ出た。”
世界中の人々に親しまれた童話劇を幼少期のメーテルリンクが運河の底で体験した「光」の記述をもとに再構成した、モメラス版『青い鳥』。

「時」の陰影を恐れて耳が卑屈にすぼまる寸前、私たちは「あ」と言う。
それは始まりの合図か、終わりの合図か。
光と闇、過去と未来、生と死。
全てを飛び越えて青い泡沫と化すとき、
いったいここには何が残るだろう。

作:モーリス・メーテルリンク
訳:堀口大學
演出:松村翔子(モメラス/青年団演出部)

出演:
海津忠(青年団) 吉田 庸(青年団) 和田華子(無隣館) 安藤真理 中野志保実 井神沙恵(モメラス) 黒川武彦(モメラス) 上蓑佳代(モメラス)

 青年団演出部の松村翔子(モメラス)が利賀演劇人コンクールで優秀演出家賞1位に入選した作品の再演である。課題作品ということもあり、戯曲は堀口大學訳のテキストをそのまま使ってはいるようだが、童話の印象の強いメーテルリンクの「青い鳥」*1がいってみれば冥界巡りのような死のイメージに満ちていることに驚いた。 
 これは既存のテキストを使っているため、余計そうなのかも知れないが、今回は安藤真理らチェルフィッチュにも出演している俳優も使っているのにも関わらず、同じくチェルフィッチュ出身の山縣太一のオフィスマウンテンがポストチェルフィッチュというかチェルフィッチュの方法論を批判的に継承しているように感じられるのに対し、モメラス(少なくともこの日のモメラス)にはそうした印象は皆無だ。
 ではそれがどういうものなのかというと、岸田戯曲賞候補になった前回公演とあまりにタッチが異なるためにいまだ掴みかねているところがある。
 今回の公演は日常性のあまり感じられない幻想味の強いイメージをある種の身体表現を交えた手法で描いたものだが、その技法の使い方に演出家としての巧みさを感じる部分はある。
 ただ、チェルフィッチュやオフィスマウンテンのように一目見て感じる身体表現の独自性の高さは感じられない。舞台は十分に楽しむことはできたけどやはり、モメラスの目指すべき方向性は松村のオリジナルの戯曲による作品にあるのじゃないかと思ってしまった。次回作品はオリジナル戯曲の作品を見たい。 

*1:山の手事情社「印象 青い鳥」。 「青い鳥」は山の手事情社のものを観劇した記憶があると思い調べてみるとなんと18年も前のハイパーコラージュ期の上演であった。 simokitazawa.hatenablog.com