下北沢通信

中西理の下北沢通信

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Dr. Holiday Laboratory「脱獄計画(仮)」@こまばアゴラ劇場

Dr. Holiday Laboratory「脱獄計画(仮)」@こまばアゴラ劇場


Dr. Holiday Laboratory「脱獄計画(仮)」@こまばアゴラ劇場を観劇。演劇には単純によさがだれにでも分かる作品以外にも「よく分からないのだけどどこか面白い作品」「その意図するところは興味深いのだが、その可能性が具現できていない作品」など様々なタイプの作品がある。私の場合、多くの人が否定的な評価する作品についてもその可能性をくみ取ってしまう傾向があり、射程の範囲はかなり広い方だと思う。
 ただ、そんな私にも苦手なタイプの作風はあって、申し訳ないが「脱獄計画(仮)」はその類の作品だった。この作品について最初の疑問はなぜアドルフォ・ビオイ=カサレスという日本ではそれほど知名度が高くない小説作品を取り上げて、しかもそれが知られていないから、その面白さを紹介するために舞台化するという風でもなく、小説を舞台版で起こった不可解な出来事についてのインタビュー舞台化。しかもそれを通常のようなリアルな演劇で再現するのではなく、現代演劇で用いられるテキストと演技に一定のバイアスがかかるような演技法で演じていく。
 現代演劇の演技法には例えばチェルフィッチュやマレビトの会など新劇のような演技スタイルを見慣れた観客の目には違和感を感じさせるものも珍しくはないが、そうしたものにはそれぞれにそうした演技法を取る必然性がある。「脱獄計画(仮)」の演技スタイルにはチェルフィッチュなどの影響を受けているのだろうと思わされる部分も散見されたが、そういう演技・演出になる必然がほとんど感じられなかったのである。
 手法的になぜそんな屋上屋を重ねるような分かりにくい表現法を選んだのか。その必然性がこの作品ではよく分からない。そのため、そういう意図はなかったのだろうが、「私たちの演劇はアヴァンギャルドでこうした様々な演技・演出様式を自在に使いこなせるのだ」というようなことを誇示したようにも見えてしまう時があるのだ。

 

作・演出:山本伊等
原案:アドルフォ・ビオイ=カサレス
アドルフォ・ビオイ=カサレスの小説『脱獄計画』は、刑務所の総督が独房の壁に塗っているカラフルな〈迷彩〉の謎と、それを目撃する主人公ヌヴェールに物語の焦点が当てられている。これを原案に2003年に制作された舞台版『脱獄計画』初演で、ある不可解な出来事が起こった。後日、当時の観客から「出演者」へ、初演についてのインタビューが行われ、テキスト化されたが、長らく未公表のままになっていた。本作はこのテキストをもとにしたインタビューの再現である。しかし初演に関する証言は二転三転し、次第に初演の存在そのものが疑われ始めていく……。

Dr. Holiday Laboratory
2021年に山本伊等、小野寺里穂、ロビン・マナバットの3人で結成された団体。2021年11月にBUoY にて『うららかとルポルタージュ』(作:山本浩貴、演出:山本伊等)を上演し、旗揚げ。2022年4月、同公演の記録冊子を出版。2022年8月には実験企画(派生)Vol.1 としてSCOOLにて『シャッセナンビ』(作・演出:小野寺里穂)を上演。ジャンルを横断しながら多様な作品を生み出す場を目指している。


出演
石川朝日、黒澤多生(青年団)、日和下駄(円盤に乗る派)、油井文寧、ロビン・マナバット(Dr. Holiday Laboratory)

スタッフ
舞台美術・衣装:中谷優希
音楽:森健太朗(PROVOKE)
照明:櫻内憧海(お布団・青年団
舞台監督:黒澤多生(青年団
戯曲執筆協力:吉水佑奈
本屋:深澤元(つまずく本屋ホォル)
記録映像:宮﨑輝(オフィスマウンテン)
記録写真:マコトオカザキ
フライヤーデザイン:山本浩貴+h
制作:小野寺里穂(Dr. Holiday Laboratory)