下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

横浜ダンスコレクション(大森瑶子・マリオ・ベルムデス・ヒール)@横浜にぎわい座 のげシャーレ

横浜ダンスコレクション(大森瑶子・マリオ・ベルムデス・ヒール)@横浜にぎわい座 のげシャーレ

森瑶子 Omori Yoko

横浜ダンスコレクション2019コンペティションⅡで最優秀新人賞を受賞、切れ味のよい踊りに定評があり、その動きから生まれる個性的なテクスチャーが観客を魅了する大森瑶子が、「薬、不幸依存症」をテーマに創作に挑む。自分にとって何の害ももたらさない優しい薬、その優しさだけでは満足できず棘があり苦しいものを求めてしまう依存に纏わる心のありようを描く、現代と共鳴しあう意欲作。

『甘いの、ゾルミ』(世界初演

振付:大森瑶子
出演:大森瑶子、木村素子、越戸茜

マリオ・ベルムデス・ヒール

スペインのグラン・カナリア島で毎年開催の国際ダンスフェスティバル MASDANZA(2018年)にて振付部門最優秀賞を受賞、Certamen Coreográfico del Distrito de Tetuán 2017でベストダンサー賞を受賞したマリオ・ベルムデス・ヒールの初来日公演。マリオ(振付家)の故郷スペイン・アンダルシア地方の伝統とキャサリン・クーリー(ダンサー)の故郷アメリカのフォークロアの動きの糸が交差し、柔和と緊張、平穏と混沌が繰り返す。絶妙な間合いとともに全てが独自のムーブメントに昇華する瞬間に、過去や現在を超越した永遠の時空が広がっていく。

『DUET ALANDA』(日本初演

振付:マリオ・ベルムデス・ヒール
出演:マリオ・ベルムデス・ヒール、キャサリン・クーリー

森瑶子は2019年の横浜ダンスコレクション2019コンペティションⅡで最優秀新人賞を受賞者。昨年のコンペティションⅡの観劇レポートには以下のように書いたが、今回も動きとコンセプトはなかなか秀逸であった。

動きとコンセプトという2つの点で卓越していたのが大森瑤子の「三角コーナーに星がふる」。kawaiiカルチャーといえばアニメ、漫画、アイドルなどと並び、海外での現代日本のイメージを代表するアイコンのひとつだがこれまで意図的にそういう要素を主題とした作品はあまりなかったのではないか。
 日本女子体育大学在学中の22歳で、クラシックバレエ畑で育ってきたダンサーらしいから単純にバレエ的な動きになってもおかしくないところが、人形ぶりやロボットマイムのような動きを取り入れながら、そうした動きを分解、再構築していくようなムーブメントにも独自性を感じたし、それが「ジェニーはご機嫌ななめ」(やくしまるえつこ版)などの音楽と組み合わさるのが面白い効果を生み出していた。


SAI International Dance Festival 2018 大森瑶子「かませ犬」
 昨年はソロ作品で「クラシックバレエ畑で育ってきたダンサーらしいから単純にバレエ的な動きになってもおかしくないところが、人形ぶりやロボットマイムのような動きを取り入れながら、そうした動きを分解、再構築していくようなムーブメント」と書いたが、今年の『甘いの、ゾルミ』はトリオ作品。動きはバレエ的なものはほとんどなくて、基本的には音ハメ的にリズムに同期したヒップホップ的な動きを少し崩したようなものとなっていた。ヒップホップを誰に学んだのかと聞いてみると高橋萌登の名前が挙がって驚いたのだった。KENTARO!!が以前彼女らの出身大学に教えに出かけたことは知っていたので、その辺りかなと思っての質問ではあったのだが、早くも若手部門とはいえ孫弟子から受賞者が出ていたとはと驚かされたのだ。
 ヒップホップ出身と言ってもジャズダンスやエンターテインメントの色合いが強いものが多く、カッコいい系のものが主流と思われるのだが、大森瑶子の作品はそういうものとは一線を画した作風で、選曲もポップ味はあるけれど、内外の最新のチャート曲のようなものはない。前回の作品では「ジェニーはご機嫌ななめ」(やくしまるえつこ版)を使ったが、今回の冒頭の曲は同じ「やくしまる」でも薬師丸ひろ子の楽曲「ハードデイズ ラグ」だったらしい。その後には石野卓球の曲を使ったりもしたが、一番笑わせてもらったのは途中でパフォーマーが鼻歌のように歌っていた歌は「稽古場で適当に出来た大森瑶子のオリジナル曲」らしく、激しいアクロバティックな動きと脱力的な場面がすばやい展開で交互に現れるのがJ-POP的で面白いといえるかもしれない。

薬師丸ひろ子「ハードデイズ ラグ」 9thシングルB面曲 [HD 1080p]


DANTZALDIA 2019 | Mario Bermúdez & Catherine Coury
 ダブルビルのもう1本であるスペインのマリオ・ベルムデス・ヒールのデュオ作品はダンスとしては不足はないものだが、やはり新味に欠けると思わざる得ない。ダンスマーケット的にはデュオでコンパクトなこういう作品は好まれるであろうし、ダンサーの技量にも問題はないがこういうものを現代アートであるコンテンポラリーダンスとはいいたくない気持ちも強い。「マリオ(振付家)の故郷スペイン・アンダルシア地方の伝統とキャサリン・クーリー(ダンサー)の故郷アメリカのフォークロアの動きの糸が交差し、柔和と緊張、平穏と混沌が繰り返す」ということらしいが、コンテンポラリーバレエ的に動きが滑らかに流れていくようにどうしても見えるし、動きに高度な独自性があるという風にはどうしても思えないのである。