下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ミュージカル女優誕生。新国立劇場にエビ中柏木ひなたが登場。ELF The Musical(エルフ・ザ・ミュージカル)@新国立劇場中劇場

ELF The Musical(エルフ・ザ・ミュージカル)@新国立劇場中劇場

新国立劇場柏木ひなたが登場。みごとなミュージカル女優としてのデビューであった。
「ELF The Musical」は捨て子としてサンタクロースとエルフによって育てられた男の子が大人になって、父親に会いにニューヨークにやってくるという典型的なクリスマスを題材にしたファンタジーである。ミュージカルの世界でも最近は文学や映画を原作として様々な現代的な諸相を作品に取り入れているものが主流だと思われるが、いさぎよいほどにそういうのは全然ない作品で、「それはどうなんだ」と考えもしたが、そういう余計なことを考えなければ見ていて楽しいのは楽しいのでこういうのもありといえばありなんだろう。
演出は宝塚歌劇団の三木章雄。経歴を調べてみると、レビュー作品の作・演出と、海外ミュージカル作品の潤色・演出が多い人でこれまでは外部の仕事もOGによるショーの演出がほとんどのようだから、ジャニーズJrの男性が主演のミュージカルを手掛けるのは初めてのことで、新たな挑戦だったようだ。ロンドンやウィーンのミュージカルのような演劇的な作品よりはこういうレビュー的な要素の強いミュージカルコメディーは得意なんだろう思わせる安定感を感じた。


柏木ひなた(エビ中)の歌声はミュージカルでもすごい!『ELF – The Musical/エルフ』公開ゲネプロ(2020年)│エンタステージ
主演の岩﨑大昇(美 少年/ジャニーズJr.) 、共演者の織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.)はそれぞれ18歳、17歳とまだ若く、デビューしたグループの下の世代だが、中劇場とはいえ、この日の新国立劇場は彼らのファンであると思われる女性たちで埋まっており、ジャニーズ恐るべしと思わされた。とてつもなく上手いというタイプではないが、岩﨑大昇は舞台上での華があり、歌もダンスも安定していて、初の外部ミュージカル出演とは思えない安定感があった。
 とはいえ、この舞台を見にいった当初の目的でもあった私立恵比寿中学柏木ひなたは本当に素晴らしかった。歌がうまいのは分かっていたけれど、エビ中での彼女の歌い方はロック調であったり、声を張り上げることも多くて、ミュージカルではどうなんだろうと思って観劇したのだが、そんな心配は微塵もない。エビ中ではあまり使わないような高音部のファルセット的な歌唱も見事に使いこなしていて、今回の座組は香寿たつき花乃まりあ と宝塚のトップを務めたOGも参加していたのだが、何の遜色もない出来栄えで、ミュージカル女優としての確かな一歩を踏み出したといえるだろう。役を演じている時はそうでもないのだが、ひと声歌いだした時の会場のざわつきがその将来性を示していたと思う。
 さらに言えば今回の作品では主演と手をつないだり、抱きついたり、さらにはキスシーン(のように見える)部分もあるのだが、いやらしさがいっさいなく、ネット上のジャニーズファンからもあまり反感の声はないようで、これも歌とダンスで確かに見せた実力の成果ではないかと思う。アイドルのミュージカル挑戦が話題になることが多いが、本格的な舞台は実は少なくて、ミュージカル風の舞台が多い中で、今回の演技は注目すべきもので、グループ活動とのかねあいはあるけれど、乃木坂46生田絵梨花に続いて、「レ・ミゼラブル」などの本格的ミュージカルのオーディションに挑戦できるレベルとなってきたと思う。
 最後に父親役を演じた別所哲也。予想した以上に歌が上手いのに驚かされた。
 

「ELF The Musical」
【出演】 岩﨑大昇(美 少年/ジャニーズJr.) /織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.)/柏木ひなた私立恵比寿中学)/花乃まりあ エリック・フクサキ /コング桑田 香寿たつき別所哲也 ほか
【演出】三木章雄(宝塚歌劇団
【スタッフ】
Book by:Thomas Meehan and Bob Martin
Music by:Matthew Sklar
Lyrics by:Chad Beguelin
Based upon the New Line Cinema film written by David Berenbaum
【日時・会場】
<東京> 2020年11月12日(木)~11月22日(日) 新国立劇場 中劇場