青年団第82回公演『コントロールオフィサー』+『百メートル』二本立て公演@アトリエ春風舎
東京五輪の最終予選を戦う日本選手の姿を描いた短編演劇2本立て。「コントロールオフィサー」が水泳の日本選手権の個人メドレー決勝終了後のドーピング検査控室。「百メートル」は百メートル決勝着前の選手控室の様子を描き出している。この2本が直接東京五輪のことを揶揄しているというわけではないが、コロナの感染拡大で二度目の緊急事態宣言が発令になり、東京五輪の開催も政府は開催するとあくまで言い張っているものの、どう考えても開催自体風前の灯という現状を踏まえてこの作品を見るとこれまでの平田オリザ作品ではありえないほどシニカルで皮肉が効いた作品に見えてくる。とはいえ、特定の空間の実時間の流れを切るとるように描写しながら、劇場というフレームの外側に広がる世界を想像(考え)させるという平田演劇の結晶ともいえる連作かもしれない。30分の作品2本と見やすいし、コミカルな部分も普通より多くて笑えるのもコロナ禍のもとでの観劇に適した演目といえるかもしれない。劇場公演は一律禁止とはなっていないが、観劇に出かけるべきかどうか迷ったが、出かけたかいはあった舞台だったと思う。
実は「コントロールオフィサー」の方は選手の名前が原子力発電所の所在地(つまり原発の名称)となっていて、そのことでドーピング検査と原発の再稼働のための検査を重ね合わせているという仕掛けがあり、これまでの上演ではそのことはかなり意味があったことではあったのだが、今回の2本立ての印象では主題はより直接的に五輪を間近にした選手という対象にフォーカスしていて、原発のことは背景に退いている。この並びで見るとこれまでの公演以上にそういうことには気が付かない観客が多かったのではないか。
とはいえ、描かれているのが百メートル個人メドレーであり、実際の選手と登場人物は関係ない(モデルがいるわけではない)のだけれど、メダル有力選手がいる注目の種目だというだけでなく、実際に直接競技と関係ないことが話題となってしまった種目だということもあって、どうしても観客は多少なりともそういうことを意識せざるをえない。
当然平田オリザはそうした個人的な事情には無関係に作品を創作し、時事ネタも入れないタイプの作家であるから昨今の水泳界隈の出来事は困ったことだと思ったに違いない。ところが上演については笑えないエピソードが笑いの種となっていくという仕掛けがどことなく予言的に現実とシンクロしていること自体が面白いともいえそうなことになっている。
一方、『百メートル』は陸上100メートル競走、オリンピック代表選手を決める決勝の控室を描き、決勝に進出したリレーメンバーのうち個人で五輪に出られるのは3人だけだというこの種目最大のジレンマに焦点を当てている。
笑いを生み出す緊張と緩和という理論がそのまま当てはまるような作劇で大いに笑えるのではあるが、こちらの作品ではそうした要素はコーチ役を演じた永井秀樹の個人的な持ち味に付随する部分も大きく、彼の存在がないと存在しにくかった作品*1かもしれない。
『コントロールオフィサー』
東京オリンピックを控えた日本。
舞台は男子水泳のオリンピック選手を決める日本選手権の試合終了後のドーピング検査控室。
コントロールオフィサー(検査員)に囲まれる中、選手たちは水を飲み、尿意を待ち続けている。
他愛のない会話が続く中、一人、また一人と、検査のために控室を出ていくのだが…。
『百メートル』
陸上100メートル競走、オリンピック代表選手を決める決勝の控室。
スタートを前に、緊張する密室空間の中で、一人集中する者、音楽を聴く者、
緊張を紛らわすために逆にひょうきんにふるまう者など、様々な個性が表れ、
断片的な会話の中から、100メートル競走という競技の特殊性、走ることの意味などが浮かび上がる。出演
『コントロールオフィサー』
永井秀樹 立蔵葉子 海津 忠 島田桃依 串尾一輝 尾﨑宇内 中藤 奨 木村巴秋『百メートル』
永井秀樹 海津 忠 串尾一輝 尾﨑宇内 中藤 奨 木村巴秋
スタッフ
舞台美術:杉山 至
舞台監督:黒澤多生
照明:井坂 浩
衣裳:正金 彩
フライヤーデザイン:カヤヒロヤ、西 泰宏
制作:太田久美子、金澤 昭