下北沢通信

中西理の下北沢通信

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「僕の庭のLady」(アラン・ベネット作、河田園子演出)@赤坂Red Theater

「僕の庭のLady」(アラン・ベネット作、芦沢みどり翻訳、河田園子演出)@赤坂Red Theater

「僕の庭のLady(The Lady in the Van)は英国の劇作家アラン・ベネットが、自身が体験した出来事を元に作成した舞台劇。映画化もされ『ミス・シェパードをお手本に』の邦題*1で日本でも公開されているが、おそらく舞台として日本で上演するのはおそらく初めて。文化庁日本劇団協議会 文化庁海外研修の成果公演として、河田園子が演出上演されることになった。
 冒頭に書いたようにアラン・ベネット自身の体験した経験をそのまま戯曲化し上演したもので、ベネットの自宅のヴァンに住み着いて15年も暮らした老女とベネットとの交流が描かれている。内容はほぼ現実にも起こった出来事をそのまま舞台にしていると劇中に登場するベネット自身も語っているし、実際にもそうであるようだが、演劇としての仕掛けとしては劇中には二人のアラン・ベネット(釆澤靖起、多田直人)が登場して、この二人の掛け合いで舞台は進行していく。普通ならモノローグで語られるところだが、自在にこの二人に会話をさせることで、コメディーとして軽妙なタッチで物語が進行していくことに成功しており、いいアイデアであったのではないかと思う。
 ベネットは我が儘放題といったこの女性に振り回され続けるのだが、それはただ優しいというわけではなく、この女性を切り捨てられないことについて自身の母親への態度についての罪の意識があることもかかわっていることも描かれていて、こうした自己分析の冷静さもこの作家の持ち味のひとつなのだが、こうした描写にも自身を二人のキャラに分解したことが役立っているかもしれない。 
 ベネット自身が舞台に登場するものの作品は自分自身の日常を日本でいう私小説的に描いたものというわけではなく、あくまで劇中でミス・シェパードと呼ばれている高齢女性がいったいどんな人でなぜこんな風にしているのかということに焦点は当てられている。
若い時に一度はコンサートもできる一流ピアニストとして一世を風靡した過去がありながらも、宗教(キリスト教)への傾倒、教会関係者に音楽を一方的に禁じられたことなどで
数少ないを絶たれ、放浪者的な生活を強いられたことが語られはするのだが、最後に明らかになった遺産の存在などこの物語の中だけでは語りつくせなかったかもしれない様々な謎を残して物語は終わる。
 舞台としてはミス・シェパード役の旺なつきが好演。気ままな自由人でありながら、どこか育ちのよさも感じさせるという難しい役どころを魅力的に演じた。

作:アラン・ベネット
翻訳:芦沢みどり
演出:河田園子
出演:旺なつき、釆澤靖起、多田直人、五味多恵子、枝元萌、山口研志、市川奈央子、牛山茂

文化庁日本劇団協議会 文化庁海外研修の成果公演「僕の庭のLady」
2021年2月17日(水)~23日(火・祝)
東京都 赤坂RED/THEATER