下北沢通信

中西理の下北沢通信

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舞台「剣が君-残桜の舞-」再演@こくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロ

舞台「剣が君-残桜の舞-」再演@こくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロ

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アイドルグループ「たこやきレインボー」を卒業したばかりの彩木咲良根岸可蓮春名真依が出演、偶然ではあろうが卒業後最初の仕事となった。この舞台「剣が君-残桜の舞-」は漫画やアニメではなく、ゲーム*1が原作*2の2・5次元ミュージカルのようなのだが、こういう種類の作品のひとつの特徴として登場人物の属性の説明などはあまりない。知っていることが前提だからだ。代わりに出演者の人物造形などはビジュアルなどで原作に寄せてあり、ゲームを何度もプレイしたことがあり、基本的なキャラクター設定が頭に入った上で舞台を見ればかなり複雑な物語設定もすんなりと理解できて、作品世界に入っていけるのであろう。だが、ゲームをプレイしたことがない私にとって、始まる前に一応役柄の設定を読んでから臨んだが、途中で誰が誰でどういう人物だったか。登場人物を何度も取り違えたりしそうになった。
人間(徳川幕府)に刀(武器)を奪われて人の住まない様な辺境に追いやられた鬼たちの頭目が仇なさんとするのに剣の名手たちが立ち向かうというストーリーラインはそのまま「鬼滅の刃」を連想させるものだ。明らかに二匹目の泥鰌を狙っているのではないかとも思うが、ゲームの方は不明だが、少なくとも舞台の方からすると「鬼滅の刃」の鬼ほどに超人的な力や能力を発揮するわけではないので、舞台の魅力はほぼ殺陣のやりとりにある。俳優それぞれの立ち姿、剣さばきは見事で、そういう意味でアクションのレベルはかなり高い。見栄えがするし、キャラクターを演じる俳優も初めて目にした人が多いがなかなか魅力的だ。客席には彼らのファンと思われる女性観客が大勢いて、そこがこの舞台の最大の売りなのだろう。
 ただ、逆に言えばこの舞台の殺陣は「ほぼ初舞台です」というレベルでしかない元たこ虹メンバーにとってはいささか荷が重いものでもあったろう。何か月も訓練を受ければ話は別だと思うが、多少稽古したからといって太刀打ちできるレベルではない。事実、主演の浜浦彩乃をはじめとする女優陣はだれひとりとしてこの殺陣には参加していない。こういう場合、最近の作品なら「鬼滅の刃」がそうであるように男性と同等以上の能力を持ち、単に守られているヒロインじゃない女性キャラがいるはずだ。そこにも違和感を感じた。そういう意味では彩木が演じた服部半蔵(侍女)など本当はもう少し活躍させる余地があったはずだ。
 一方でミュージカルとしての歌の部分ではヒロイン役に香夜役の浜浦彩乃がいて、ほぼすべての劇中歌を彼女ひとりで歌ってしまう構成になっていた。そのため、元たこ虹のメンバーの見せ場はかなり限定されていたと言わざるを得ない。彼女らの歌唱力はハロプロ出身(元こぶしファクトリー)の浜浦と比べても同等以上のものはあるので、せめて1曲でもいいから歌わせてほしかったとの思いはあるのだが、この作品自体が再演であり、役柄や楽曲を登場人物に合わせて大幅に変えてしまうようなことは難しかった事情もあり、今回初参加だった彼女らのためにそういうことを望むのは無理筋だったであろう。
 そういう中で彼女らの芝居がどうであったかについては初めての舞台としては頑張って無難にこなしていたとは思う。初めて舞台*3としては悪くなかったと思うが、この舞台からはそれ以上のことはいいにくいことも確かなのだ。
 作品としてはアクションはいいけれど、それと比べると歌の使い方が弱いのではないか。時代劇ミュージカルのような目で見た時にはそこに大きな課題が見えた。出演者の歌唱力の問題なのか脚本の構成上の問題なのか、浜浦以外の男性キャストが歌う歌はほとんどが群唱であり、キャラごとにそれぞれの心情を歌うようなソロ曲はほとんどない。そのために劇の構成がどうしても平板に感じてしまうし、逆に浜浦が歌う歌は物語全体の流れなどに応じて歌い上げるもので、彼女の演じている香夜の個人的な心情などが仮託されたものではないため、香夜がどういう気持ちでいるのかなどがまったく伝わってこない。ひどく平板なものにも感じてしまうのだ。それぞれにソロ曲を割り振るには確かに主要キャラの数は多すぎるのかもしれないのだが、BOYS AND MENだって成立しているのだから、歌割りをしてそれぞれを目立たすことはできたはずだろう。香夜の内面が分からないのはゲームとしては彼女が誰か特定のキャラに想いをはせるというようなことがあるとプライヤーである自分を仮託することができにくくなるのでできないということがあるのかもしれないのだが……。

脚本・演出・音楽:浅井さやか*4

キャスト
香夜:浜浦彩乃
九十九丸(つづらまる):櫻井圭登
螢:反橋宗一郎
黒羽実彰:秋沢健太朗
縁(えにし):谷佳樹
鷺原左京:田中稔
鈴懸:杉江大志

柳生三厳:新井雄也
服部半蔵彩木咲良

松平辰影:米原幸佑

徳川家光徳山秀典

斬鉄:小坂涼太郎
シグラギ:福田佑亮

ハバキ憑き:佐武宇綺
マダラ:根岸可蓮
ハチモク:山中翔太

鼓法眼:鈴木祐大
七重:春名真依
朝倉宣正:丸山正吾

*1:「剣が君」ゲーム体験動画、コメントがちょっと面白い。観劇時には知らなかったがこういうゲームだったんだ。 www.youtube.com

*2:rejetweb.jp

*3:正確に言えば彩木咲良は舞台出演経験あり。

*4:oneonone.jp