下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ほろびて「あるこくはく [extra track]」@三鷹SCOOL

ほろびて「あるこくはく [extra track]」@三鷹SCOOL

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ほろびてという集団の公演を見るのは初めて。作・演出の細川洋平についてどこかで見たことがある名前だなと思い、公式サイトで調べてみると「1999年、早稲田大学演劇俱楽部を経て劇団「水性音楽」を結成。主宰・作・演出として2006年の解散まで全作品を手がけ、同時に2000年より劇団「猫ニャー(のちに演劇弁当猫ニャーと改名)」に俳優として2004年の解散まで参加ーーという細川洋平が2009年に立ち上げ、2010年より始動させたソロ・カンパニー。2015年より小さな舞台空間で時間/老い/認識といったテーマを軸にした作劇を続けている」とあり、猫ニャーに俳優として参加していた人なのかということが分かった。
そういう意味では若手劇団と書きかけたが、そんなに若いというわけではないかもしれない。ただ、最近よく見るより若い世代の演劇とも共通点は多く、そういう世代の演劇によくある俳優がある人物になりきって役を演じるというよりは俳優としてそこにいることで虚構を立ち上げていくという手法と猫ニャーが体現したようなナンセンスや不条理をブリッジで結んだようなところで作品を作っているように思われた。
それぞれ30分程度の短編演劇である「あるこくはく」と「 [extra track]」の2本立て。両者の間には石というつながりはあるのだけれど、物語設定上の直接的なつながりはなく、方法論も会話劇とモノローグ劇と様式がまったく違う。
最初の作品はドラマによくあるように娘が付き合っている相手を実家の父親のもとに連れてくるところから始まる。一見よくある話だが、彼がゴワゴワした変な帽子のようなものを被っていて「石です」と自己紹介するというナンセンスコメディというか不条理劇だ。
そもそも、石が自ら「石です」と名乗るシチュエーションがすでに意味不明というか、バカバカしいのだが、面白いのは最初に異常すぎる異常事態が提示されるのにそれ以後の展開が古典的な展開に終始して、どうして石が?という根本には触れないままに「そういう相手には娘はやれない」「別れなさい」などと通常通りの展開に終始するのだ。そのズレが笑いを呼んでいくのだが、一方で脳裏にはこれはどういう意味があるんだろうというのが、気になってくる。当初、在日外国人の隠喩なのかとも考えたが、そうだとすると当たり前すぎてそんなに面白くないし、やはり違うかと見ているうちに思えてきた。
それだけに最後になぜ関東大震災で石を投げつけられた朝鮮人のエピソードに落としこまれたのか?かなり、違和感の残る結末だったかもしれない。
一方で2本目は同じ出演者だが、まったく異なるスタイル。4人の俳優がリレーのようにつなぎながら、モノローグで自分の体験を語る。最初は演じる俳優には男女も混じっているから、
それぞれ別の話かと思って見ているが、よく、見ているとエピソードが微妙につながっており、ひとりの人物のひとつながりの回想みたいなものだというのが分かる。そして、それが何者なのかは最後の最後にやって明らかになるのだが、ラストの切れ味はなかなか鮮やかだ。
そして、同時に作者は現在のこの社会の状況に対して怒りを持っているんだというのも分かってくる。

作・演出 細川洋平

出演 鈴政ゲン、橋本つむぎ、藤代太一、吉増裕士(ナイロン100℃/リボルブ方式)
【スタッフ】
音響:nujonoto
衣裳・小道具:ほろびて
宣伝フライヤーデザイン:寺部智英
宣伝写真:細川洋平
制作:大橋さつき
企画・製作:ほろびて
協力:ダックスープ、舞夢プロ、ナイロン100℃、リボルブ方式