下北沢通信

中西理の下北沢通信

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暴力性へのアンビヴァレンツな感情引き起こす舞台 ほろびて「あでな//いある」@こまばアゴラ劇場

ほろびて「あでな//いある」@こまばアゴラ劇場

ほろびて「あでな//いある」@こまばアゴラ劇場を観劇。ほろびては細川洋平による演劇プロデュースユニット。過去に「あるこくはく」@SCOOL*1、「ポロポロ、に」@北千住BUoY*2と二度にわたって本公演を見てはいるが、いまでもまだまだ集団としての方向性を掴みかねている感がある。これまで見た3作品に共通しているのは在日外国人など日本において差別的な境遇に置かれている人たちを取り上げていることだ。
 最近の若手劇団の表現スタイルの傾向として、会話劇でありながら、例えば平田オリザのように表現したいことがそこで提示されているのではなく、マレビトの会がそうだが、デッサンのようにその輪郭のみを提示し、その解釈のかなりの部分を観客の想像力に委ねるという手法が顕著になってきている。実際にどういう作家がいるかというと関田育子や宮崎玲奈、犬飼勝哉との近親性を感じる。ただ作・演出の細川洋平は猫ニャーに出演していた経歴もあるようなので、世代的に言えばこれらの作家よりはだいぶ上なのかもしれない。
 とはいえ描き出す世界は猫ニャーなどより、後者の作家に近い。この作品ではヘアサロンの美容師と客の会話、ある部屋に集まって暮らす外国人と思われる人々の様子が交互に提示されるが、どういう状況が描かれているのかは当初は判然としない。以前の作品でも感じたが、少なくとも現代の日本をリアルに描いたものではなく、どこか異世界で起こっている出来事のようにも感じられるからだ。
こうしたスタイルの演劇でほろびてがめずらしいのは暴力性のようなものが露わな形で出て来ることだ。しかもこの作品ではさらなる弱い犠牲を求めて連鎖していく。根底にはこうした暴力性の発露への怒りがあるとは思うが、そうした衝動が舞台上でも瞬発的に爆発する場面があり、目を背けたくなるようなそうした行為が見せられることには少しアンビヴァレンツな感情も引き起こされる。よくも悪くもこの集団の特徴ということになるのだろうが……。

作・演出:細川洋平
今までのほろびてでは見られないような空間を作ってみたいと思って、久しぶりにじっくりと時間をかけて準備をして、一緒にやりたいと思ってきた方や新しく出会った方、6名に集まっていただきました。早稲田どらま館で創作のためのクリエイションを経て、本番を行う予定です。失われた時代や失われた数年間を絡ませながら、ほろびてによる、拒絶と否定を巡る思索劇を作っていこうと思います。


2009年立ち上げ2010年より始動させた、細川洋平による演劇カンパニー。休止期間を経て、2015年より活動を本格化。演劇的な手法を模索・更新・拡張しながら、共存や孤立を複層的に描く。



出演
鈴木将一朗、伊東沙保、内田健司、生越千晴、中澤陽、吉岡あきこ

スタッフ
照明:シバタユキエ
音楽:nujonoto
演出助手:渡邊綾人
舞台監督:西廣奏
宣伝美術:酒井博子(coton design)
宣伝イラスト:奥田亜紀子
制作協力:大橋さつき
制作:鈴木ちなを、ほろびて