下北沢通信

中西理の下北沢通信

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【連載3回目】「ももクロを聴け!」の堀埜浩二さんにAMEFURASSHI「Drop」について聴く(3)

ももクロを聴け!」の堀埜浩二さんにAMEFURASSHI「Drop」について聴く(3)


ももクロを聴け!ver.3」を出版したばかりの堀埜浩二さんにAMEFURASSHIの音楽について聴くインタビュー企画の3回目。
(ZOOMにて収録)
堀埜 本当は違うのですがジャンルとしてはこういう「Drop」のような踊るための音楽は最近は「ダンス」という言い方がされています。
中西 初歩的な質問で申し訳ないのですが、ダンスと言っているジャンルとEDMはまた違うのでしょうか。
堀埜 EDMはもっとエレクトロをしっかり出している感じになりますかね。ただ、その辺はどういう風に言うかというだけの話なんで、大きくはダンスミュージックという枠の中にあります。よく言われる韓国のガールクラッシュとかいうのは結局実は何が違うかと言うと歌詞が違うというのが大きい。今まで特にアイドルなんかはそうですけれど恋愛の歌とかそういう古い感覚の男に依存するみたいな内容のものが昭和歌謡以来の定型だった。そうではなく、自立した女性が自分たちで自分たちの道を行くみたいなとこら辺をがっちりと歌詞の中で歌うというのが韓国のガールクラッシュの典型的な形で女の子がカッコいいと思うような内容。それは振付であったり、歌詞の内容であったりでひとつの世界観をがっちりと作っている。BLACKPINKとかが象徴的ですが、我々が見ていても全然男性に媚びている感じがなくて、自分たちの表現と言うのをばっちりとやっているというカッコよさはあります。
中西 「DROP DROP」って誰でしたっけ?
堀埜 「DROP DROP」は詞は先ほどから出ているHIROさん。作曲・編曲に同じグループのKORANG-Eさん、CHANCEさんが入っています。だから、傘下の若手を起用して曲(トラック)を作らせているという感じ。
中西 皆ローマ字表記なので私なんかには覚えにくいのですが(笑)。
堀埜  Digz所属の若手の人たち、そして、ここは音楽教室とかもやっているので、そういうところから若い作家を常に育てているんですよね。それでこういうのに参加させて、実績を積ませて自分たちで曲を書けるように、というそういうことをやっていますね。作家の名前だけをずっと見ていたら本当に「MICHI」を書いたCHI-MEYだけが、本当に全然別の場所から来た人というのがはっきりと分かる。他はほぼほぼ統一されています。
中西 そうなると完全に名前はそういう形では表には出ていないけれどHIROさんと佐藤守道さんによる共同プロデュースみたいな感じなんですかね。
堀埜 そうですね。だから、1曲目を書いているHIROさんがほぼほぼA&R的なこととか、世界観づくりのようなことを含めてかなり深いところまでやっていると思います。
中西 そのことでいうと守道さんはももクロではA&Rを担当しているので、その辺の阿吽の呼吸みたいなものはけっこう考えて曲作りに臨んでいるのではないかと思います。
 あくまで私が個人的に思っていることなんですけれど、AMEFURASSHIではももクロでは守道さんが思っていても実現できないことを全面的に展開しているんじゃないかと思っています。ももクロはなんだかんだ言っても宮本純乃介さんのプロジェクトであるという側面がありますからね。ただ、このアルバムでもさすがに現在のももクロのメイン作家であるinvisible mannersを引き抜いて持ってくるというようなことはなくてもももクロでの人脈をうまく活用している面はあるのかなと思っています。
堀埜 やはりだからスターダスト側で言うと佐藤守道さんが宮本純乃介ワールドからどれだけ離れられるのかというのは意識して作家陣を選んだりとか曲作ったりというようなところを見ているというのは分かりますよね。それは彼にしたらももクロで出来ないことというよりはももクロはもう宮純がやってくれているからそこに自分がかかわってあまりどうこうするということはない。打ち合わせにはもちろん参加するんだろうけれど、だいたいの方向性が固まったら後は大丈夫みたいな安定した力関係があるんだと思います。ところがAMEFURASSHIはまだこれからのグループですからそこの部分は海外進出を含めてももクロとかスタダの他のグループには関わっていない若い作家陣を使い続けて、いま試しているということがありそう。
中西 そして3番目が先ほど話題に出た「BAD GIRL」。
堀埜 これもやはり全体としてもそうなんですが、しっかりと曲として成立しているんですよ。Kとか洋楽(米国のガールポップ)はシンプルなパーツの組み合わせだけで曲の体を作るんですが、彼女らの場合はいわゆるAメロがあってBメロがあってサビがあるというようなところはある程度キープしているんです。「BAD GIRL」なんかもメロディーがかなりしっかりと出てきている。

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堀埜 その次の曲の「Lucky Nunber」はアルバムの中ではちょっとシティポップ風な味があって、ちょっと懐かしめのディスコ風味も入れて曲のテイストだけから言うとフィロソフィーのダンスとかがやっている感じに極めて近い曲、これを4曲目に持ってきている。

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 その次に「Blue」というのが来てて、これもちょっとシティポップ感はあるのだけれど、もっと典型的なブラックフィーリングみたいなところが入っている。全体的な流れとしては曲に幅を持たせながらトータルとしてはK-POPとかガールクラッシュの路線にはいってるんだけれど、曲の幅として最後のバラード曲(「UNDER THE RAIN」)なんかもそうだけれど、一本調子にならないような工夫がされていると思います。このようにアルバム全体での流れの工夫というのはかなりいろいろされていると思います。面白いのはアルバム全部通して聴いてもトータル37分なんです。基本どの曲も3分台で、最後のバラード以外は全部3分以内。ここまで短い曲で11というのはそれだけ今の時代に合わせているということに他ならない。ももクロなんかは1曲、4分や5分当たり前でしょ。これが何かといったらAメロあってBメロあってCメロあって、転調して間にギターソロがあってとかそういう構成をやっていると絶対4分は超える。この子らにはそれをいっさいさせなくて、アルバム通してギターソロもないし、他の楽器のソロもいっさい入っていない。ダンスということに集中させるような楽曲構成となっている。短く短くというのは今はTiktokの時代ですから発注時のオーダーにちゃんと入っていると思います。
中西 これはあくまで私見にすぎませんが、「Blue」を聴いてみて続けて宇多田ヒカルの初期の曲を聴いてみるとR&Bという共通点もありますが、かなり似ているんじゃないかと感じました。

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堀埜 そういうとこもありますね。宇多田ヒカルが当時なんであそこまで行けたかというと、彼女は独力で指導なしでそれをなしとげましたから、好きで聴いていてやったという実績がずっと今に来ていて、逆に今の宇多田ヒカルはああいう曲をしないしできない。あの感じというのはその後、継ぐ者がいないので、誰かがやらなあかん部分だとは思います。
中西 もちろん、宇多田ヒカルは14歳ぐらいで作ったはずなので、もっと若かったわけだけれど、相当歌がうまくないとああいう感じではやれない。あれをAMEFURASSHIがやれていたのは凄いなと思いました。
堀埜 アメフラは歌で聴かせるという実力がはっきりあるので、そういうのはなんなくクリアしていますよね。
 歌い方の特徴としては典型的なコリアンイングリッシュの言い方が入っているのもある。「SENSITIVE」の「セシティブ」みたいに聴こえる発音の仕方とかが米語の発音ではなく、ちょっと韓国なまりをわざと入れていたり、歌終わりのところを「にゅっ」と上げたりというものもそうで、その辺でKの感じも出している。
堀埜 「Drama」もかなりK-POP感がある。「SENSITIVE」はライブで受ける曲ですが、これもちゃんとメロディーラインがしっかりしたさびがあって、そこまでを盛り上げるような構成になっているのはいわゆるK-POPとはちょっと違う邦楽的な作り方も残してある。
中西 「Drama」はどんなジャンルですか?
堀埜 やはりK-POP調のガールクラッシュです。書いているのはSHOWさんという人ですが、やはりDigzの人と思われます。そこら辺の全体的なトーン&マナーというのはやはり仮に仮説としてK-POPというのが英語で歌って米国で受け入れられグラミー賞とかに出るようになったというのを考えれば、本来は日本人も出来るのではないかという仮説を取るとすればそういう出し方とか売り方を意識して作っていっているという感じはあります。歌詞を見ていても一般的なアイドルの恋愛ソングはほぼほぼないんです。昔のアイドルソングは乙女心イコール待ってるわみたいなところがあったが、今の彼女らの恋愛ソングというのは風景の中になじむように言葉があって、そこから私は私のやり方でこうやっていくというような感じ。それは友達付き合いであったり、男性が相手であったりいろいろあるけれど、圧倒的に自分たちを主語に置いて歌を成立されている。よくAKBで言われる秋元がよく使う女の子のボーカルグループに「僕は~」と言わせるというそういう性別を入れ替えたりするというようなことはあえてそういうことはしないで全部自分たちが圧倒的に主語というのもそういう話の中でやろうとしている。歌詞もそんな感じになっていますね。それもももクロと全然違うところだと思います。

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【「Drop」収録曲】
■CD ※Type-A,B,C共通
1. ARTIFICIAL GIRL
Lyrics and Music : HIRO
2. DROP DROP
Lyrics : HIRO
Music : KORANG-E / CHANCE
Arranged By CHANCE / KORANG-E
3. BAD GIRL
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group
Music : KORANG-E
4. Lucky Number
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group
Music : KORANG-E / CHANCE / ODD-CAT
Arranged By KORANG-E / CHANCE / ODD-CAT
5. Blue
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group
Music : ODD-CAT / CHANCE / KORANG-E
Arranged by CHANCE / KORANG-E
6. Drama
Lyrics : SHOW
Music : KORANG-E
7. SENSITIVE
Lyrics : Chica for Digz, Inc. Group / ODD-CAT / KORANG-E
Music : KORANG-E / Damon Jo / ODD-CAT
Arranged By KORANG-E / Damon Jo / ODD-CAT
8. MICHI
Lyrics & Music : CHI-MEY
9. DISCO-TRAIN
Lyrics : SHOW
Music : Dirty Orange / Chica for Digz, Inc. Group
10. UNDER THE RAIN
Lyrics : HIRO
Music : Mitsu.J
11. MOI
Lyrics & Music : HIRO