下北沢通信

中西理の下北沢通信

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果てとチーク「はやくぜんぶおわってしまえ」(1回目)@アトリエ春風舎

果てとチーク「はやくぜんぶおわってしまえ」(1回目)@アトリエ春風舎


升味加耀作・演出の舞台を見たのは2018年の無隣館の若手自主企画以来だから、途中にコロナ禍が入ったとはいえずいぶんひさしぶりのことといっていい。
その際に実はこのように書いた。

無隣館がただの養成所ではなく、若き才能の宝庫であることはすでに1期2期を見てきた経験からはっきり分かっていることではあるが、第3期も同様に侮れない。いきなり、1期の綾門優季を髣髴とさせるアンファンテリブルが出てきた。升味加耀という女性作家の舞台を少し見ただけでそんなことを痛感した。

アンファンテリブルという言葉は綾門優季に使った後、やはり無隣館出身の若手女性作家、宮崎玲奈にも使った。このふたりはいずれも2022年の演劇ベストアクトの上位で私は選んでおり、それはコンスタントな活動を続けてきた賜物であるとも考えているが、升味も見ることはできなかったが、ある程度コンスタントに活動を続けていただけにどのように成長を遂げているか、久々の観劇が楽しみでもあった。
教室に女生徒が集まってきて、一見たわいない話をわちゃわちゃ話をしている様子は平田オリザの「転校生」を思い出させた。登場人物の人数は少ないが、作品自体は現代口語演劇のフォーマットに従って作られているからだ。ただ、そのことは難問を作者に突き付けているとも言える。「転校生」の当時平田オリザが指摘していたのは現代口語の演劇が日常を描き出すといってもそれだけでは演劇にはならないということだった。
実は最近見た「日本文学盛衰史」において、明治の文学者たちにほぼ同じ内容のことを口語体の文学について言わせているが、つまりそこには写生だけではない仕掛けが必要なのだということだ。
最初は女生徒らによるジャニーズについての話題から始まるが、これにはいくつかの狙いがある。1つ目はこの話が今現在ではなく、10年ぐらいか少し前の出来事であることがうかがえること。もうひとつは生徒のひとりにその話題を避けるかのように席を外してしまう生徒がおり、
彼女が帰国子女でアイドルなど日本のサブカルチャー的な話題に着いていけなくて、阻害感を持っていることが分かることだ。
(続く)

作・演出:升味加耀
「生徒の性自認が揺らぐ」「外見で順位をつけてはいけない」
私立清正(せいせい)女子ミス・ミスターコンは、突然その中止を余儀なくされた。
結果発表直前の教師の指示に、未だ納得できない実行委員たちの議論が白熱する。
2012年の私たちと、透明で静かな地獄のお話。


■おしらせ①
本作は、性的マイノリティに対する差別表現及び、主に女性への性加害に関する言及が含まれます。
フラッシュバック等の不安がある方には、事前に該当シーンの台本データを送付いたします。
希望される方はページ下部にある専用アドレスまでお問い合せください。

■おしらせ②
呼吸器・皮膚疾患・感覚過敏等でマスクのご着用が難しい方へ

果てとチーク
青年団演出部所属・升味加耀が、2016年ベルリンにて旗揚げ。
深刻な社会問題を突飛な設定で戯画的に描き、理不尽な現状への憎悪と、未来へのささやかな希望を込めた作品作りを行っている。

出演
井澤佳奈、川村瑞樹、Q本かよ、中島有紀乃、名古屋愛、升味加耀

スタッフ
作・演出|升味 加耀
ドラマターグ|綾門 優季青年団リンク キュイ)
舞台監督|大石 晟雄(劇団晴天/みさくぼ)
音響・照明|櫻内 憧海(お布団)
宣伝美術|間宮 きりん
宣伝イラスト|little red boy
制作|半澤 裕彦

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