下北沢通信

中西理の下北沢通信

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女優が船を演じるなべげん版「艦これ」 青函連絡船サーガ エピソード1 渡辺源四郎商店「Auld Lang Syne」@こまばアゴラ劇場

渡辺源四郎商店「Auld Lang Syne」@こまばアゴラ劇場



渡辺源四郎商店は俳優が頭に船の模型を帽子のように被り、擬人化された船を演じる「青函連絡船」シリーズ*1を上演してきたが、今回の「Auld Lang Syne」は第四作にして、歴史上最初の青函連絡船を取り上げた物語。
 本シリーズのスタートは2015年に上演された「海峡の7姉妹」で、その時には次のように評した。

青森ー函館間を運航していた7隻の連絡船の歴史を擬人化。海峡の7姉妹に見立てて7人の女優が頭に船の形のかぶり物をしてその数奇な歴史を演じた。現代口語地域語演劇を標榜する弘前劇場の出身で、もともとは群像会話劇を得意としていた畑沢聖悟(渡辺源四郎商店)ではあるが、最近はリアル志向の作風から一線を画すような作風のものが、増えており今回の 「海峡の7姉妹〜青函連絡船物語〜」はその典型的な例といっていいだろう。

 手法としてはこの時のものの延長線上にあるが、さらに言えば今シリーズでは船が英語では三人称「She」で受ける女性名詞であることにちなんで青函連絡船役を全員女優が演じること、しかも彼女たちが船のみならず複数のキャラクターを次々と演じ分けていくことから、ほぼ全員が高校演劇での畑澤聖悟の教え子ということもあり、その芸達者な魅力を存分に楽しむことができる趣向となっているのだ。
 そして、こうした手法がなんとなく以前よりなじみがあると感じるのは戦艦を女性キャラに置き換えた『艦隊これくしょん -艦これ-』や競走馬をやはり女性キャラに置き換えた「ウマ娘 プリティーダービー」のアニメ・ゲームにおけるヒットなどで観客側にも擬人化自体に慣れが生じていることもあると思われる。
 表題の「Auld Lang Syne」は「蛍の光」の原曲であるスコットランド民謡からとっている。この物語で描かれる二隻の連絡船、比羅夫丸と田村丸がスコットランドで建造されたものであったという史実がもとになっているが、この船を演じる演者が劇中で原語でこの歌を歌うことや連絡船同士が親交を深めていく描写として、ロシアに関係する船舶が原語(こちらはロシア語)でロシア民謡の「トロイカ」を歌うなど劇中にはさまざまな楽曲が散りばめられており、舞台上に置かれた様々な音の出る小道具や楽曲は演者が操ることで生の伴奏や効果音としても活用されるなど「生」の魅力を強調した演出にもなっている。

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この作品のもうひとつの重要なモチーフは戦争である。比羅夫丸と田村丸はともに新造船で乗客・貨物専用の郵送船として建造されたが、後から仲間に加わった連絡船はもともとロシア船籍の船が日露戦争の旅順会戦で沈んだのを引き上げて再利用した船だった。こうした過去があるため戦闘に関わることを忌諱してきたが、その後に連絡船に加わった船舶はその同じ旅順会戦で機雷敷設船として活動した船で、「ロシアのことはいまでも許さない」などと言い切る。そして、青函連絡船は戦争とは関係ない民間の船舶だと言う比羅夫丸らに対して、青函航路は日本の大動脈であり、その活動は

作・演出:畑澤聖悟
スコットランドで建造された比羅夫丸と田村丸。青函連絡船の始まりである2隻は、日露戦争後から第一次世界大戦を経て昭和にいたる16年間を最新鋭船として駆け抜ける。激動の16年間を物流・人流の動脈として北海道と本州をつないだ2隻の視点で、今につながる近代日本の姿を描く、なべげん流エンターテインメント!


渡辺源四郎商店
「渡辺源四郎商店」は、高校演劇の指導者として全国的に知られる店主・畑澤聖悟が主宰、青森市を拠点に活動する劇団。畑澤の作・演出作品の上演を主軸に、青森県内の市民劇、全国での中高生向けワークショップ、渡辺源四郎商店作品のドラマターグも務める工藤千夏の作・演出作品上演も行っている。


渡辺源四郎商店第38回公演『Auld Lang Syne』青森公演
2022年11月@渡辺源四郎商店しんまち本店2階稽古場
撮影:米山竜一

出演
山上由美子、音喜多咲子、下山寿音、沼畑枝里、東さわ子(劇団東演
*2023年2月17日19時の回は、劇団事情により、山上由美子に代わり、畑澤聖悟が出演致します。

スタッフ
ドラマターグ・演出助手:工藤千夏
舞台美術・宣伝美術イラスト:山下昇平
舞台監督:中西隆雄
音響:藤平美保子
照明:中島俊嗣
プロデュース:佐藤誠
制作:秋庭里美、奈良岡真弓、福嶋朋也、木村知子、佐藤宏之、渋井千佳子
宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子
監修:原田伸一