ウンゲツィーファ 演劇公演『リビング・ダイニング・キッチン』@アトリエ春風舎
産まれたばかりの赤子を抱える若い夫婦(藤家矢麻刀・豊島晴香)の葛藤を描いたウンゲツィーファ 演劇公演『リビング・ダイニング・キッチン』@アトリエ春風舎を見た。作者である本橋龍自身の育児体験をもとにしたドキュメント演劇と言っていいのかもしれない。
「作者自身の体験をもとにした」とは書いたが、主人公である夫(藤家矢麻刀)は普通の会社勤めのサラリーマンであり、その代わりに病院にいる父親に会うためにひさびさに訪ねてくる兄(黒澤多生)を演劇人とするなど事実関係を意図的に変更し「リアル」一辺倒ではなくしているのことにこの世代の作家らしさが出ているように感じさせた。
最近の若い作家に家族の問題にフォーカスしたような作品群が多くみられるのだが、その多くは年老いた両親と子供世代との関係性とやがて訪れる親の死を描いているものが主流になっているのではないか。私の場合、世代的にはそこに登場する父母の世代に近い高齢者といっていいのだが、ここ10年程に相次いで父母を亡くした体験があることもあり、そうした題材は身近に感じられることが多い。
それに対し、『リビング・ダイニング・キッチン』は兄は登場し、話題としては入院中の父のことも語られるものの、物語のほとんどは舞台の最初から絶え間なく泣き続けている赤子とその親である夫婦のことに絞られており、私のように結婚して妻はいても子供がない人間にとってはどうしても本などで得た知識以上の実感が湧かないようなところがある。それゆえ、正直言ってピンとこないきらいが強いのだが、実体験に基づいた作劇ゆえにこの舞台の場合はこの若い夫婦と近い若い世代、あるいは将来子供を持とうと考えているより若い世代にとってはより身近なものに感じられるのだろう。世代の離れた自分にそれを感じられないのは如何ともしがたいと感じながら舞台を見ていた。
脚本・演出:本橋龍
超自然的育児活劇@LDK 人生のだいたいはこの間取りに収まってる「夜なのに、朝とする」「無いものを、有るとする」演劇に潜むバグを意識的に駆使することで「ここじゃないどこか」に誘うエンターテイメントの作り手、ウンゲツィーファの最新作。育児をしている夫婦のお話。二人のコミュニケーションの大半は、間に赤ちゃんを挟んだ三角関係になっている。でも赤ちゃんは話してることなどわからないし、よく見えてもいない。半分透明なそれに、二人は人生の内のなにか大きなものを、捧げつつあったのだ。
ウンゲツィーファ
劇作家「本橋龍」を中心とした人間関係からなる実体のない集まり。創作の特徴はリアリティのある日常描写と意識下にある幻象を、演劇であることを俯瞰した表現でシームレスに行き来することで独自の生々しさと煌めきを孕んだ「青年(ヤング)童話」として仕立てること。
上演作品『動く物』が平成29年度北海道戯曲賞にて大賞を受賞。以降、2年連続で上演作品(転職生、さなぎ)が優秀賞を受賞。北海道戯曲賞3年連続の入賞を果たす。
出演
黒澤多生 豊島晴香 藤家矢麻刀スタッフ
舞台監督:黒澤多生
衣装:村上太郎
照明:木村奏太
音楽:SKANK/スカンク
植栽装飾:MOND And PLANTS
宣伝美術:一野篤
イラスト:山形育弘
制作:中條玲