ぱぷりか「柔らかく搖れる」@こまばアゴラ劇場
2021年に第66回岸田國士戯曲賞受賞*1したぱぷりか「柔らかく搖れる」の再演をこまばアゴラ劇場で観劇した。福名理穂は無隣館*2出身で元青年団演出部の所属(演出部は今年6月に解散)。青年団演出部には有望な若手女性作家が多数在籍していたが、升味加耀、宮崎玲奈、山内晶ら同年代以降の若手の多くが現実に非現実が混入していくような作風となっている。
平田オリザ流の現代口語演劇とは言いがたいなかで、福名は平田の正統な後継者*3といえるのかもしれない。
とはいえ演劇様式としては地域言語の活用(福名理穂=ぱぷりかでは広島弁)、明示されずに隠された伏線として仕掛けられた関係性の提示などにおいて、先行世代では平田オリザというよりも時空劇場時代の松田正隆、弘前劇場の長谷川孝治の劇作を連想させるようなところがあるのだが、一方で福名理穂の「柔らかく搖れる」に現代性を感じるのは家族のそれぞれにアルコールやギャンブルの依存症や同性愛による田舎の家族との関係による悩み、不妊が原因となって離婚した夫婦など現代の病症とでもいえそうなさまざまな要素が社会の縮図のようにひとつの家族の出来事としてへと圧縮されて描かれていることだ。
そして、その死によって舞台では不在の存在となっているが、死してなおこの家族に大きな影を落とし続けている父親の存在。現代劇でありながらこうした濃密な関係性を落とし込んでいくことで、神話的ともいえる構図を提示していく。
「明示されずに隠された伏線」と冒頭に言及したが、物語の最初からそこに大きな謎を投げかけているのは「父親の死の真相」である。暗黙に交わされる視線などにより登場人物たちには何かの暗黙の了解があるかのように描いてはいるものの例えば浅すぎて溺死することが考えにくい川で父親が溺死していたことなどから、これは偶然の事故死ではなく、登場人物の誰かによる殺人の可能性も示唆されるのにそれによって真犯人をめぐって登場人物同士が互いに互いを疑いあうような疑心暗鬼の関係に陥ることもない。
この父親の死の謎は例えば松田正隆の「月の岬」*4の海で遭難した父親のことを連想させるが、父親の存在が「月の岬」と比べると露わであるだけにこれまではその真相に迫ることがこの作品を読み解くための大きなカギであるとは思わないできたのだが、ひさびさに再演を見て、「え、ここで」といういわばアンチクライマックスで 荒々しく時間が切断されたように終わってしまうという奇妙な終幕のありかたを再確認するうちに「父親の死」について再考する必要があるのではないかとの思いが強まってきた。
今回はもう一度観劇を予定しており、そのことについてもう一度考えてみたいと思っている。
作・演出:福名理穂
いつだって家の近くでは川の音がしていた。
川の流れは止まることなく、ただただ静かに溺れていく。
田舎の閉塞感と依存し合う家族を広島弁で描く*5。第66回岸田國士戯曲賞受賞作品、キャストを新たに再演。
ぱぷりか
福名理穂により2014年旗揚げ。
主に会話劇を中心とし、人との繋がりで生まれる虚無感を描く。
「孤独な気持ちを抱えていても本当は一人ではなかったり、歳を重ねても大人になりきれない人々」を描き、観た後に人の温もりを感じるような作品を作りたいと奮闘している。
第5回公演『柔らかく搖れる』(2021年)で、第66回岸田國士戯曲賞受賞。
webサイト:https://www.paprika-play.com/出演
井内ミワク(はえぎわ)、池戸夏海、江藤みなみ(avenir'e)、大浦千佳(劇団チーズtheater)、荻野祐輔
岡本 唯(ぱぷりか)、佐久間麻由、篠原初実、富岡晃一郎、山本真莉スタッフ
舞台美術:泉 真
音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
照明:山内祐太
舞台監督:岩谷ちなつ
演出助手:山田朋佳
イラスト:三好 愛
宣伝美術:中北隆介
宣伝写真:矢野瑛彦
インターン:池谷 咲、川﨑夏実、湯浅映璃子
制作:込江 芳、林 紗弥、半澤裕彦