下北沢通信

中西理の下北沢通信

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永野愛理が魅力的なヒロイン像を好演 看板女優の存在感 東京演劇アンサンブル ブレヒト『コーカサスの白墨の輪』より「白い輪、あるいは祈り」@俳優座劇場

東京演劇アンサンブル ブレヒトコーカサスの白墨の輪』より「白い輪、あるいは祈り」@俳優座劇場


東京演劇アンサンブル『白い輪、あるいは祈り』@俳優座劇場を観劇。ブレヒトコーカサスの白墨の輪』を鄭義信が改作。初演は唱劇の形式で韓国上演された作品の日本版。それに合わせて、久米大作が音楽を書下ろし、日本オリジナルに近い形での上演となった。ブレヒトのオリジナル戯曲の上演を見たことはないので、原作とどこが異なるのかはよく分からないのだが、主要登場人物の役名などはそのままになっているのでいわゆる翻案のような形ではなく、作品の一部を鄭義信版として改変したということのようだ。
 音楽劇の仕立てとしてはキャストの歌唱力が重要となってくるが、グルーシャを演じた永野愛理が本当に良かった。東京演劇アンサンブルの最近の上演を調べてみると「銀河鉄道の夜」ではカンパネルラ役*1、「行ったり来たり」では主役のフェルディナント・ハヴリチェクを演じているので、現在の東京演劇アンサンブルでは看板女優といっていい存在だと思うが、その時はいずれも男性役でヒロイン然とした配役ではおそらく初めて見たような気がするが、なかなか魅了的な人物造形であったと思う。一方、アツダクを演じた洪美玉は「行ったり来たり」に続いて中高年男性の役柄。新劇団でありながら、東京演劇アンサンブルは芸達者な女優が多いというのはひとつの武器で、こうした男性役を女優が担っていることが多いことに気が付いたが、それも今回過去作品のキャスト表を確認して改めて気づいたが、面白いキャスティングだと感じた。
 「血のつながりもない子を必死で育てる娘グルーシェの姿とにわか裁判官アズダクによる大岡裁きを通し、戦争で荒廃した人々の心の再生(対立の和解)を謳った」という原作の筋立てをそのまま踏襲しながら、ラストシーンで裁判によって一応の「めでたしめでたし」的な大団円を迎えた後で、再び戦争が起こって主要登場人物皆が戦争によって死んでしまったと連想されるような幕切れが用意された。
 よりストレートに「戦争による悲劇」、反戦劇の側面が強調されたともいえるが、観劇後の印象としては唐突すぎて私にはなんとなくしっくりこない。ウクライナやガザといった現在進行形の戦争の悲劇と連関させようという作者の意図があまりにも露わに感じて、反戦プロパガンダの匂いを感じてしまったからだ。実際のところどうなのかは原作戯曲をあたって再確認することが必要なのかもしれないのではあるが。

脚本・アツダク 洪美玉
グルシェ  永野愛
シモン 雨宮大夢

浅井純彦
菊地柾宏
公家義徳
志賀澤子
鈴木貴絵
竹内茉由架
戸澤萌生
永濱渉
奈須弘子
林亜里子
原口久美子
彦坂紗里奈
福井奏美
細谷巧
町田聡子
真野季節
三木元太

出演予定だった演出/鄭義信 
音楽/久米大作
舞台美術/池田ともゆき
衣裳/木場絵理香
照明/増田隆芳
音響/藤田赤目
振付/広崎うらん
擬闘/栗原直樹
メイク/高村マドカ
歌唱指導/吉村安見子
舞台監督/三木元太
宣伝美術/小田善久 伊波二郎
制作/太田昭 小森明子

*1:これは完全にジョバンニ主役として作られていたのでは主役とはいえないが。