下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

「東京トワイライト ー強盗団と新しい家ー」(作・演出:松田正隆)@座・高円寺1

「東京トワイライト ー強盗団と新しい家ー」@座・高円寺

松田正隆による新作。松田正隆による最近の作品の中でもこの「東京トワイライト」は演技、演出の面で実験性の高い作品といえるかもしれない。そのため、終演後、客席のあちらこちらで「意味がわからない」との声が上がっていたのも現実だし、可能性は感じるものの現時点で新たな「演劇表現の完成形」などと無批判の称揚を呈する気にはならないのも確かだ。
とはいえ、公演が刺激的かどうかという観点からすれば極めて刺激的な公演であったと思う。

作・演出:松田正隆

出演:大木実奈、河原舞、久世直樹、清水詩央璃、牧凌平、三谷亮太郎、吉田彰文
期間 2024年02月22日(木)~02月25日(日)
会場 座・高円寺1
チケット発売日
チケット発売中
発売開始日:2023年12月13日(水)
座・高円寺の演劇学校「劇場創造アカデミー」(CTA)修了生の中からオーディションで選んだ俳優たち。演劇の創造、表現についてさらに模索するラボラトリー公演として、アカデミー講師でもある松田正隆と共に、彼の書下ろしによる新作公演に挑みます。
繁華街の交差点、雑踏、東京の夕暮れ。
作品解説・みどころ
この劇は、「夫婦が新しい家を建てる話」「強盗団が強盗をする話」「仕事を解雇された女性が爆発物を製作する話」の三つが併存して進行します。
この劇で上演されるであろう、「新しい家に移り住む動き」、「強盗を繰り返す動き」、「爆発物を作り出す動き」は、この劇を創作するプロセスで開発された俳優の身ぶりによって表現されることになるでしょう。
既存の「移り住むこと」「強盗すること」「爆発物を作ること」を引用しつつも、それらの身ぶりが新たな演劇の創造力を生み出すことを願っています。―――――松田正隆
スケジュール
日時 02/19
(月) 02/20
(火) 02/21
(水) 02/22
(木) 02/23
(金) 02/24
(土) 02/25
(日)
14:00 − − − − ○ ☆ ○
19:00 − − − ○ ● ● −
☆印公演(2/24の14時の回)=託児サービスあり(対象:1歳~未就学児/定員あり/要予約/料金1,000円)。観劇の1週間前までに劇場チケットボックス(TEL03-3223-7300)までお申込みください。

●印公演(2/23、24の19時の回)=終演後、演出家・松田正隆によるポストトークあり
 ゲスト:23日砂連尾理さん
     24日カンパニーメンバー(飛田ニケ)
スタッフ
作・演出:松田正隆

照明:岩城 保 
音響:島 猛 
照明操作:是安理恵
舞台監督:佐藤昭子

演出助手:飛田ニケ 村井 萌
オンライン広報:與田千菜美
営業・宣伝:佐藤和美 森田諒一
キャスト border=
大木実
河原 舞
久世直樹
清水詩央璃
牧 凌平
三谷亮太郎
吉田彰文

AMEFURASSHI 5th Anniversary live「Bad Girls Story」@品川ステラボール(U-NEXT)

AMEFURASSHI 5th Anniversary live「Bad Girls Story」@品川ステラボール(U-NEXT)

AMEFURASSHIのライブ映像のU-NEXTによる配信を見た。実際のライブでも感じたが、音源よりはスローなアコースティックなアレンジにした「BAD GIRL」に始まり、「Fly Out」「ALIVE」「ARTIFICIAL GIRL」と矢継ぎ早に続けた冒頭部分はまさに圧巻を感じさせるスタートだったといえよう。
DJのRAMRIDERを加えて、ライブハウスでのライブ感を強調した「梅雨祭」に対して、「Bad Girls Story」はステージ背後に設営された三対のLEDパネルに映し出されるイメージ映像と一体化したような作りこまれたステージとなった。ダンス&ボーカルグループとしてはPerfumeがライゾマティクス・リサーチの真鍋大渡との共同でメディアアートとパフォーマンスの融合を試みてきたが、これは寸分たがわぬパフォーマンスをステージごとに繰り返すことができるPerfumeの精密無比なダンスパフォーマンスの力があって初めて実現できたことだ。今回のAMEFURASSHIのパフォーマンスも特に「Batabata Morning」の際に見せた背後のLED画面に映し出されたメンバーの映像と実際のメンバーのパフォーマンスが完全に同期した演出*1で、こうした演出は今回はおそらく試験的なアイデアとして試みられたのだとは思うが、今後会場が大きくなってくるに従い、このように映像と実物を組み合わせたような演出はより増えていくのではないかと思われたのである。
 この日のライブは「5th Anniversary live」とも銘打たれ、アメフラ発足以来の5年の足取りを振り返るという意味合いもあったのだが、その意味では中盤の「DISCO-TRAIN」が面白い演出となっていた。

セットリスト
AMEFURASSHI「AMEFURASSHI 5th Anniversary Live “Bad
Girls Story”」2023年12月22日 ステラボール
01. BAD GIRL
02. Fly Out
03. ALIVE
04. ARTIFICIAL GIRL
05. Batabata Morning
06. グラデーション
07. Magic of love
08. Tongue Twister
09. MOI
10. MICHI
11. DISCO-TRAIN
12. ミクロコスモス・マクロコスモス
13. 月並ファンタジー
14. Rain Makers!!
15. Lucky Number
16. UNDER THE RAIN
17. Drama
18. Blow Your Mind
19. Love is love
20. メタモルフォーズ
21. DROP DROP
22. SPIN
<アンコール>
23. 轟音
24. Colors
25. Staring at You

AMEFURASSHI ワンマンライブ
2024年3月15日(金)東京都 EX THEATER ROPPONGI

<日時>
2023年12月22日(金) @品川ステラボール

【1部】
open 18:15 / start 19:00
先行販売 15:00~

*1:一度LEDの背後にメンバーがはけるとそれとほぼ同時に映像にメンバーが着替えするシーンが映し出され、それが終わって戻ると同時に着替えたメンバーが舞台上に現れる。

あたらしい劇場プロジェクト『ハムレット・ハウス』@吉祥寺シアター

あたらしい劇場プロジェクト『ハムレット・ハウス』@吉祥寺シアター

キャスト・スタッフ
[作・演出] 小西力矢(吉祥寺シアター
[出演] 田久保柚香 宝保里実(コンプソンズ) 升味加耀(果てとチーク) 村山 新

[舞台監督] 大石晟雄(劇団晴天) [照明] 緒方稔記(黒猿) [音響] 佐藤こうじ(Sugar Sound)

[衣裳・イラスト] 浅田大根 [フライヤーデザイン] 林 揚羽 [写真撮影] Yoshikino

[協力] 株式会社大沢事務所 コンプソンズ 果てとチーク 劇団晴天 黒猿 Sugar Sound 合同会社syuz'gen

[主催] 公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団

藤家と南風盛と中條「蝶のやうな私の郷愁」@アトリエ春風舎

藤家と南風盛と中條「蝶のやうな私の郷愁」@アトリエ春風舎


藤家と南風盛と中條「蝶のやうな私の郷愁」@アトリエ春風舎を観劇。松田正隆の初期作品を青年団の藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲らが上演。この作品は内田淳子土田英生出演、松田演出の上演を見たことがあり、そのラストシーンを今でも鮮やかに思い出すことができるのだが、過去レビューを検索してみるとまだ最近と言えなくもない2021年にひなた旅行舎*1による上演を見たことが分かったが、こちらの方はどうしたわけかすっかり記憶から抜け落ちていた。
青年団周辺の若手作家らによる松田作品の上演では玉田企画「夏の砂の上」*2などがあり、これも年間ベストに選んだ好舞台であったが、特定の演出は置かずに自分たちで自己プロデュースした試演会の延長線上のような今回の公演を見てさえ、青年団周辺の若手俳優と松田の初期作品との相性はいいのではないかと思った。松田の初期作品の最大の特徴は戯曲のセリフとしては明確には描かれていない余白の部分にあるが、今回の上演は台風による停電の最中の出来事として、1本の蝋燭のみの明かりの下で上演されたことで、余白という言い方では真逆のイメージとはなるけれど蝋燭の周囲以外の舞台上のほとんどの部分が闇の中で演じられることになっていて、その闇の中にぼんやりと浮かび上がる死のイメージのようなものが作品の主題とよく呼応しているように感じられたのだ。

作:松田正隆

クリエーションメンバー
藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲
波。
世界にラジオがある。
それが電波を受信し音を出す。
「午後のニュースと天気予報」
まるで潮の満ち引きのように近づいては遠のく。
それがやがて日常になる。

夕方、あるアパートの部屋。
箪笥が二点、肩を並べて置いてある。
ちゃぶ台。その上手の方にテレビ。
その他様々な日常の品々が、そこにはあるに違いない。

女が、ちゃぶ台に頬杖をついて座っている。眠っているのか、それとも、ラジオから流れる音楽に聴き入っているのか、それは誰にもわからない。

音楽が切れ、ラジオは台風情報を告げる。

ラジオのアナウンサー 「ここで、台風関係の情報をお伝えします。 九州の 東の海上を北上中の台風18号の影響で、関東地方は、これから夜にかけて、大雨の降る恐れがあります。」

—『蝶のやうな私の郷愁』冒頭のト書きより

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企画者の南風盛もえです。俳優をしています。同じく俳優であり友人の藤家矢麻刀さんと、出演作の台詞を覚えたり興味のある戯曲を読み合わせたりするだけの、俳優のみの稽古会を細々としておりました。

ある稽古会の日、その日は台風の影響で大荒れでした。「台風の近づくある夕方」という内容の2人芝居の戯曲がたしか家にあったな、今日にぴったりだな、いつかやってみたいなと思っていたな、と、その戯曲を持っていき、読み、藤家さんがやってみましょうよ、と言ってくれ、今企画となりました。

やってみたい・それを見てほしい、というシンプルな欲求のまま公演を打てるということは本当に少ないです。お金、社会的な意義・ニーズ、公演に関わる全ての人の立場やスタンス、等々、シンプルだった自分の欲求を実現するためには、それ以外もどんどん加えていかないと、劇場で、舞台に立つことは、なかなか叶いません。

でも今回は、稽古会の2人に中條玲さんを加えた3人、とにかく先ずこの3人でやってみようという、身軽な機会を作ることが出来ました。私たちの生活の中の演劇という営みを、出来るだけ長く続けられますように。そのためのはじめの1歩に、ぜひお立ち会い頂けたら幸いです。

2023.11.13 南風盛もえ

俳優で企画者の藤家矢麻刀です。
ある時期から、本番以外の時間や環境でただ稽古をしたいと思っていました。そんなこんなで俳優の南風盛さんと稽古会をしたりしていました。

俳優はリラックスを求められます。どんな場でもその状態になることがスキルでもあるでしょう。
とはいえ、毎回メンバーや場所など環境の違う場で安心することは簡単じゃないです。
演劇を上演すること自体も簡単ではない。
それが良いところでもあります。

その一端を探るために、安心できる最小人数でやってみることにしました。
演出家はいませんが、不要ではありません。
それでもまずは、目の前の相手とのコミュニケーションに絞って、創作をしてみます。
そうして、中條くんが協力してくれることで、はじめの場がなんとかやれそうです。

演劇カルチャーがどうなっていくかわかりませんが、私たちのささやかな試みを気にしていただけたら幸いです。

2023.11.20 藤家矢麻刀

藤家と南風盛と中條
藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲の3人体制で出演、スタッフワークを行います。南風盛と藤家による、上演を目的としない俳優のみの稽古会からスタートした集まりです。ミニマルな規模と構成員で、身軽に上演(=発表)をすることを目的としています。

藤家矢麻刀
1996年生まれ、神奈川県川崎市出身。俳優。

南風盛もえ
沖縄県生まれ育ち。こまばアゴラ演劇学校”無隣館”3期生修了後、2019年劇団青年団に入団。

中條玲
長崎生まれ。舞台芸術に出演や制作として参加。日記やテキストの執筆、植物やご飯にまつわる取り組みを実施。



©︎小池舞

出演
藤家矢麻刀、南風盛もえ

スタッフ
企画・演出:藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲
スチール:小池舞

サラダボール「サド侯爵夫人」(2回目)@こまばアゴラ劇場

サラダボール「サド侯爵夫人」(2回目)@こまばアゴラ劇場

作:三島由紀夫 演出:西村和宏
アルフォンス。私がこの世で逢った一番ふしぎな人。
1772年秋。パリのモントルイユ夫人の屋敷でサド侯爵(アルフォンス)の犯罪と逃亡にまつわる醜聞について話すサン・フォン伯爵夫人とシミアーヌ男爵夫人。モントルイユ夫人は二人にサド侯爵を救済してほしいと依頼する。そこにサド侯爵に献身的に尽くし理解者であろうとする夫人ルネ、ついで妹アンヌも現れる――

サド侯爵を巡っての女たちの激しい対立。
言葉と言葉、論理と論理の応酬。

「アルフォンスは、私だったのです。」


演出家より▼

命尽きたあと、人は緩やかに死んでいくのだと思う。
それは記憶の問題として。
希望も、貞淑も、悪徳も、欲望も、緩やかに死んでいく。
サド侯爵は生きながら死んでしまったのだろう、緩やかに。だからルネは会わない。不思議ではなくなったから。
三島はまだ生きている。言葉として、文学として、演劇として。美しさと不可解さを残しながら、まだ血を流している。
それをこの3時間の舞台で証明してみたい。

演出家 西村和宏

西村和宏
演出家、サラダボール主宰、四国学院大学准教授、ノトススタジオ芸術監督。
1973年生、兵庫県出身。1999年より川村毅氏が主宰する劇団第三エロチカで俳優として活動。2002年にサラダボールを立ち上げ、以降すべての演出を手掛ける。2005年より平田オリザ氏が主宰する劇団青年団の演出部に所属。2011年より四国学院大学身体表現と舞台芸術メジャー(演劇コース)にて教鞭を執る。これを機に活動の拠点を香川県に移し、高校生向けのワークショップや市民劇創作、子ども向け音楽劇など四国内で幅広く演劇教育や創作活動を行っている。

サラダボール
演出家・西村和宏が、古典戯曲から現代戯曲まで様々なジャンルの作品を上演する場。座付作家・鈴木大介のシュールな不条理現代劇からシェイクスピアチェーホフ岸田國士や三好十郎まで多様な戯曲を扱い、上演ごとに作品の色合いが大胆に変化する。歌にダンスのエンタメショー、言葉の妙を味わう対話劇、親子で楽しめる子ども参加型演劇など、多彩な作品を生み出す演劇のるつぼ、サラダボール。「拠点四国」として地域社会に根ざした芸術活動を行う。


サラダボール公演『サド侯爵夫人』2020年10月
四国学院大学ノトススタジオ
撮影 : 加藤晋平

出演
ルネ:高橋なつみ(サラダボール)
モントルイユ夫人:鈴木智香子(青年団/サラダボール)
アンヌ:永山香月
シミアーヌ男爵夫人:横関亜莉彩(サラダボール)
シャルロット:ほりゆり
サン・フォン伯爵夫人:申 瑞季青年団

スタッフ
舞台美術 : カミイケタクヤ
舞台美術アシスタント : 武智奏子
照明 : 西山和宏(ミュウ・ライティング・オフィス)
音響 : 高橋克司(東温音響)
舞台監督 : 前田浩和(だるまど〜る)
衣装 : 西村ひとみ
宣伝美術 : hi foo farm
写真 : 加藤晋平
制作 : 太田久美子(青年団) 宮地真優 上田英治

「しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村 NEX第153夜T『Dear BEATLES 前夜祭』」@フジテレビNEXT

「しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村 NEX第153夜T『Dear BEATLES 前夜祭』」@フジテレビNEXT

第153夜 2024年2月15日(木) 19:00〜21:00
しおこうじ
坂崎幸之助/玉井詩織

杉真理
清水仁
和田唱
矢作萌夏
セントチヒロ・チッチ

超ときめき♡宣伝部

ダウンタウンしおこうじバンド
宗本康兵音楽監督
加藤いづみ/佐藤大剛/竹上良成//清水淳

全編英語歌唱 スタンダード並べた本格的ジャズ公演「有安杏果 Jazz Note 2024」第2部@ビルボード東京

有安杏果 Jazz Note 2024」第2部@ビルボード東京

アンコールの1曲が有安杏果作詞作曲の「サクラトーン」*1の英訳ジャズ編曲バージョンで最後の最後に歌詞の一部だけを原曲の日本語で歌った以外は全曲が英語、しかも有安杏果作曲の新曲2曲以外はすべてジャズのスタンダード楽曲*2を並べたセットリスト。バンドのトリオのインプロも交えた掛け合いもあり、それに杏果も参加していかにもセッションという場面も数多く入るなどちょっとジャズやりましたというものではない本格的なジャズの公演であった。
杏果はこれまでソロになって以降、ギターやピアノの弾き語り、自ら作詞作曲したオリジナル曲の披露など様々な音楽活動を見せてくれていたが、やはり最大の魅力はそのボーカルであって、そういう意味でそれに全振りして一流のミュージシャンとやりあった時にどんなものを見せてくれるのかをはっきりと示してくれたのが今回の「有安杏果 Jazz Note 2024」だったといえるだろう。ジャズシンガーとしては若干の生硬さや若さがあるというのは否定することはできないけれどビルボード東京という場所に位負けすることはなく、上々のデビューだったのではないかと思う。

有安杏果(Vo)
大林武司(Pf)
小川晋平(Ba)
Alon Benjamini(Dr)

有安杏果 Jazz Note 2024」2024年2月14日 Billboard Live TOKYO 1stステージ
01. Social Call
02. I Wish I Knew
03. Bye Bye Blackbird
04. Embraceable You
05. How High The Moon
06. I Got Rhythm
07. It Might As Well Be Spring
08. Tsuki Talk
09. Regeneration
<アンコール>
10. Sakura Tone

サラダボール「サド侯爵夫人」@こまばアゴラ劇場

サラダボール「サド侯爵夫人」@こまばアゴラ劇場


サラダボール「サド侯爵夫人」@こまばアゴラ劇場を観劇。三島由紀夫の戯曲「サド侯爵夫人」を青年団演出部出身の西村和宏が演出。三島のこの戯曲は会話劇でありながら、翻訳の古典劇を思わせるような詩的な表現も含んだ流麗な文体が特徴でいわゆる現代口語演劇的な演技体では上演するのが難しい。西村は劇中人物の対話が心理的なクライマックスを迎える二幕と三幕の終盤において、劇中に劇伴音楽としてEDMの楽曲を流し、そこでのセリフを意図的にその音楽のテンポに合わせて、朗々としたフレージングをさせることで、劇的な高揚感を生み出すことに成功した。

作:三島由紀夫 演出:西村和宏
アルフォンス。私がこの世で逢った一番ふしぎな人。
1772年秋。パリのモントルイユ夫人の屋敷でサド侯爵(アルフォンス)の犯罪と逃亡にまつわる醜聞について話すサン・フォン伯爵夫人とシミアーヌ男爵夫人。モントルイユ夫人は二人にサド侯爵を救済してほしいと依頼する。そこにサド侯爵に献身的に尽くし理解者であろうとする夫人ルネ、ついで妹アンヌも現れる――

サド侯爵を巡っての女たちの激しい対立。
言葉と言葉、論理と論理の応酬。

「アルフォンスは、私だったのです。」


演出家より▼

命尽きたあと、人は緩やかに死んでいくのだと思う。
それは記憶の問題として。
希望も、貞淑も、悪徳も、欲望も、緩やかに死んでいく。
サド侯爵は生きながら死んでしまったのだろう、緩やかに。だからルネは会わない。不思議ではなくなったから。
三島はまだ生きている。言葉として、文学として、演劇として。美しさと不可解さを残しながら、まだ血を流している。
それをこの3時間の舞台で証明してみたい。

演出家 西村和宏

西村和宏
演出家、サラダボール主宰、四国学院大学准教授、ノトススタジオ芸術監督。
1973年生、兵庫県出身。1999年より川村毅氏が主宰する劇団第三エロチカで俳優として活動。2002年にサラダボールを立ち上げ、以降すべての演出を手掛ける。2005年より平田オリザ氏が主宰する劇団青年団の演出部に所属。2011年より四国学院大学身体表現と舞台芸術メジャー(演劇コース)にて教鞭を執る。これを機に活動の拠点を香川県に移し、高校生向けのワークショップや市民劇創作、子ども向け音楽劇など四国内で幅広く演劇教育や創作活動を行っている。

サラダボール
演出家・西村和宏が、古典戯曲から現代戯曲まで様々なジャンルの作品を上演する場。座付作家・鈴木大介のシュールな不条理現代劇からシェイクスピアチェーホフ岸田國士や三好十郎まで多様な戯曲を扱い、上演ごとに作品の色合いが大胆に変化する。歌にダンスのエンタメショー、言葉の妙を味わう対話劇、親子で楽しめる子ども参加型演劇など、多彩な作品を生み出す演劇のるつぼ、サラダボール。「拠点四国」として地域社会に根ざした芸術活動を行う。


サラダボール公演『サド侯爵夫人』2020年10月
四国学院大学ノトススタジオ
撮影 : 加藤晋平

出演
ルネ:高橋なつみ(サラダボール)
モントルイユ夫人:鈴木智香子(青年団/サラダボール)
アンヌ:永山香月
シミアーヌ男爵夫人:横関亜莉彩(サラダボール)
シャルロット:ほりゆり
サン・フォン伯爵夫人:申 瑞季青年団

スタッフ
舞台美術 : カミイケタクヤ
舞台美術アシスタント : 武智奏子
照明 : 西山和宏(ミュウ・ライティング・オフィス)
音響 : 高橋克司(東温音響)
舞台監督 : 前田浩和(だるまど〜る)
衣装 : 西村ひとみ
宣伝美術 : hi foo farm
写真 : 加藤晋平
制作 : 太田久美子(青年団) 宮地真優 上田英治

リクエストライブ「このジグザグジギーがすごい!」

リクエストライブ「このジグザグジギーがすごい!」

 コントは以前は演劇の隣接領域として認識していて、それゆえ、テレビでのコント番組などはあまりカバーできておらず、そういう意味ではコントファン、お笑いファンとは言えないが、下北沢周辺などで行われた演劇的コントグループの公演*1にはよく出かけた記憶がある。ジグザグジギーのことは最近AMEFURASSHIと接点を持ったことでその存在を認識していたが、コントの内容を見てみると二人だと例えばより演劇的要素が強いシティボーイズ東京03のように複雑な人物の関係性を作りづらいこともあり、1つのアイデアの敷衍になっていくきらいがあるが、単純なようなキャラによりかかった笑いではなく以前によく見ていた演劇的コントに近い作風といえるかもしれないと思った。
 「リクエストライブ」なる表題にふさわしく今回のライブにはオフローズ宮崎 , ゼンモンキー荻野 , ラブレターズ塚本 , AMEFURASSH市川 , ダウ90000蓮見と5人のゲストが参加、過去のジグザグジギーのネタのうち、それぞれが「この1本」というのを選んだものを順番に上演する形式となった。
 ラブレターズ塚本が全体の進行を担当、ゲストが選んだコントがジグザグジギーによって演じられた後、それを選んだゲストと塚本がジグザグジギーのふたりとトークを行うのだが、本編のトーク以上にこのトーク部分が面白かった。もっとも笑ったのは企画側からこの二十本の中から選んでほしいとゲストそれぞれに渡されたリストがあって、比較的最近ジグザグジギーのコントを見るようになった AMEFURASSH市川はそこに含まれた映像資料の中から推薦作品を選んだのだが、実際にイベントが蓋を開けてみるとその二十本は映像資料が手に入りやすいなどの理由で比較的最近の作品が選ばれていたこともあり、他のゲストはみなそれ以外のものを選んでいたということが分かったことだ。それでトークの流れから市川が「きょう見たリストになかったものの方が面白かった」などと言い出したために見事にその後に登場して墓穴を掘ってしまったのがダウ90000蓮見。蓮見はかなり熱心なジグザグジギーのファンだったようで、リストにある最近の作品より面白い傑作がそれ以外にたくさんあるということを言いたかったのを言い間違えて、「リストにあるようなB面作品ではなくて」と口走ってしまい、ジグザグジギー本人も含めそこにいる皆から総つっこみを受けてしまい、しかもそれを何とか挽回しようと言い訳をしようとすればするほどしどろもどろになってしまったのだが、普段は自分の集団では口が達者でメンバーを手玉に取っているだけにそれが一転窮地に追い込まれているのが面白かったのである。
 コントは本数こそ多くはないが結果的にパターンがそれぞれ違うものが選ばれていて、私のように初めてライブを見たものには入門として適したライブだったかもしれない。 

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イベント概要
INFORMATION

出演者 ジグザグジギー , オフローズ宮崎 , ゼンモンキー荻野 , ラブレターズ塚本 , AMEFURASSH市川 , ダウ90000蓮見

*1: 故林広志プロデュース「漢字シティ すりる」について。故林広志の作品は彼が上京してくる以前のガバメント・オブ・ドッグスの時代から継続的に見てきたせいで、上京後これまでの故林作品には「今夜はポピュラー」にせよ、コントサンプルにせよ、どうしてもガバメントないしMONOの土田英生、水沼健らガバメントのメンバーの影を見てしまうことが多かった。今回の「漢字シティ すりる」はそうしたことがなかった点で故林広志が新たな方向性に向けて明確に歩みだしたという印象を初めて受けた。 それはこれまでも村岡希美を起用した「薄着知らずの女」などで少しはそうした試みはあったのだが、意識的に非日常の領域に住まうものとして、それを女優に担わせることをしたことにあるのではないかと思う。ガバメントにはもちろん女優はいなかったわけだが、客演としてもその舞台に一切女優を上げることをしなかったのは故林の中に舞台における女優の存在と純粋の笑いへの志向性が抵触するとの考えがあったのではないかと思う。もちろん、女優にも優れたコメディエンヌはいるわけだが、多くの場合、そうした女優は観客との親和性を武器にしていることが多いので、ある意味で観客を突き放すような故林流の笑いとは折りあいが悪いということはあるかもしれない。それゆえ、私は故林の舞台で見事に精彩をはなった村岡希美を見るまでは故林は女優は使えないのじゃないかと考えていたのだが、村岡との共同作業を契機として、故林は新たな女優の使い方の枠組みをマスターし、それが結実したのが今回のこの舞台と思ったのである。  それが体現されたのが「気分転換の話」「彼岸花の話」「理解者の話」の3篇である。ここでは女/異世界の存在なのである。故林は異世界のものゆえ本質的に理解不可能な女とのちぐはぐな会話にふりまわされる男たちの姿をシニカルに描いていく。和風スケッチとは銘打っているがこのコントの特色は必ずしも笑いということだけを純粋には追求していない。そこから立ち上ってくるのはある種の悪意である。もっともここに登場する女性たちは特に悪意を被害者である男性に向けているわけでもなくて、その直接的な悪意の不在がかえってそこに登場する男性を翻弄していくところの怖さのようなものが浮かび上がってくるという構造になっているのだ。  特に「彼岸花の話」というのは故林によればアルフレッド・サキの短編からモチーフを取ったものらしいのだが、考え落ちのある怪談の形式を踏んでいる。もちろん、前段の寺の住職の気弱な態度など笑えるところはあるのだが、笑っているうちにいつのまにか怖い世界に巻き込まれていくわけで、笑いはあくまで最後に落とすための伏線のようなものであり、このスケッチの眼目自体はこの底知れぬ不気味さにあるといえる。  もぅとも、今回のスケッチ集では「ソンさんの話」や「憑依の話」のように故林がこれまで多用してきたネタの焼き直しと思われるものも含まれており、先ほど挙げた3篇にしても怖さとか不気味さのようなものが十全な形で表現されるとこまでいっていないきらいもある。そうであっても、こういう方向性にこれまでの故林のコントには見られなかった新たな可能性の影のようなものを感じたし、これを続けていくことで今後なにが出てくるのかが楽しみな公演だったのである。

第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品決定

第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品決定

第68回岸田國士戯曲賞の選考会が2024年3月1日金曜日・午後5時より東京神保町・學士會館にて行なわれます。なお同賞は昨年度より公益財団法人 一ツ橋綜合財団の後援を受け、「白水社主催・公益財団法人 一ツ橋綜合財団後援」の体制にて運営されております。
選考委員は、市原佐都子、上田誠岡田利規タニノクロウ野田秀樹本谷有希子矢内原美邦の各氏(五十音順、敬称略)です。
本年度の最終候補作品は下記の8作品となっております。

 今年も私が個人的に絶対これが入らないのはおかしいと思っていた宮崎玲奈
「ことばにない」が最終候補作品に入っていないことに落胆は隠せない。最終候補に残っている作品のなかでは旧青年団演出部勢の升味加耀『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』に注目。受賞をする可能性は低いと考えているがコントグループ「ダウ90000」の蓮見翔作品が最終候補に残っていることも注目であろう。
 該当作品は未見なのだがゆうめいの池田亮が残っており受賞候補として有力なのではないかと思う。

株式会社 白水社 岸田國士戯曲賞事務局

第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品一覧(作者五十音順、敬称略)

安藤奎『地上の骨』(上演台本)
池田亮『ハートランド』(上演台本)
金子鈴幸『愛について語るときは静かにしてくれ』(上演台本)
菅原直樹『レクリエーション葬』(上演台本)
蓮見翔『また点滅に戻るだけ』(上演台本)
升味加耀『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』(上演台本)
メグ忍者『ニッポン・イデオロギー』(上演台本)
山田佳奈『剥愛』(上演台本)

候補者紹介(五十音順、敬称略)