下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

藤家と南風盛と中條「蝶のやうな私の郷愁」@アトリエ春風舎

藤家と南風盛と中條「蝶のやうな私の郷愁」@アトリエ春風舎


藤家と南風盛と中條「蝶のやうな私の郷愁」@アトリエ春風舎を観劇。松田正隆の初期作品を青年団の藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲らが上演。この作品は内田淳子土田英生出演、松田演出の上演を見たことがあり、そのラストシーンを今でも鮮やかに思い出すことができるのだが、過去レビューを検索してみるとまだ最近と言えなくもない2021年にひなた旅行舎*1による上演を見たことが分かったが、こちらの方はどうしたわけかすっかり記憶から抜け落ちていた。
青年団周辺の若手作家らによる松田作品の上演では玉田企画「夏の砂の上」*2などがあり、これも年間ベストに選んだ好舞台であったが、特定の演出は置かずに自分たちで自己プロデュースした試演会の延長線上のような今回の公演を見てさえ、青年団周辺の若手俳優と松田の初期作品との相性はいいのではないかと思った。松田の初期作品の最大の特徴は戯曲のセリフとしては明確には描かれていない余白の部分にあるが、今回の上演は台風による停電の最中の出来事として、1本の蝋燭のみの明かりの下で上演されたことで、余白という言い方では真逆のイメージとはなるけれど蝋燭の周囲以外の舞台上のほとんどの部分が闇の中で演じられることになっていて、その闇の中にぼんやりと浮かび上がる死のイメージのようなものが作品の主題とよく呼応しているように感じられたのだ。

作:松田正隆

クリエーションメンバー
藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲
波。
世界にラジオがある。
それが電波を受信し音を出す。
「午後のニュースと天気予報」
まるで潮の満ち引きのように近づいては遠のく。
それがやがて日常になる。

夕方、あるアパートの部屋。
箪笥が二点、肩を並べて置いてある。
ちゃぶ台。その上手の方にテレビ。
その他様々な日常の品々が、そこにはあるに違いない。

女が、ちゃぶ台に頬杖をついて座っている。眠っているのか、それとも、ラジオから流れる音楽に聴き入っているのか、それは誰にもわからない。

音楽が切れ、ラジオは台風情報を告げる。

ラジオのアナウンサー 「ここで、台風関係の情報をお伝えします。 九州の 東の海上を北上中の台風18号の影響で、関東地方は、これから夜にかけて、大雨の降る恐れがあります。」

—『蝶のやうな私の郷愁』冒頭のト書きより

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企画者の南風盛もえです。俳優をしています。同じく俳優であり友人の藤家矢麻刀さんと、出演作の台詞を覚えたり興味のある戯曲を読み合わせたりするだけの、俳優のみの稽古会を細々としておりました。

ある稽古会の日、その日は台風の影響で大荒れでした。「台風の近づくある夕方」という内容の2人芝居の戯曲がたしか家にあったな、今日にぴったりだな、いつかやってみたいなと思っていたな、と、その戯曲を持っていき、読み、藤家さんがやってみましょうよ、と言ってくれ、今企画となりました。

やってみたい・それを見てほしい、というシンプルな欲求のまま公演を打てるということは本当に少ないです。お金、社会的な意義・ニーズ、公演に関わる全ての人の立場やスタンス、等々、シンプルだった自分の欲求を実現するためには、それ以外もどんどん加えていかないと、劇場で、舞台に立つことは、なかなか叶いません。

でも今回は、稽古会の2人に中條玲さんを加えた3人、とにかく先ずこの3人でやってみようという、身軽な機会を作ることが出来ました。私たちの生活の中の演劇という営みを、出来るだけ長く続けられますように。そのためのはじめの1歩に、ぜひお立ち会い頂けたら幸いです。

2023.11.13 南風盛もえ

俳優で企画者の藤家矢麻刀です。
ある時期から、本番以外の時間や環境でただ稽古をしたいと思っていました。そんなこんなで俳優の南風盛さんと稽古会をしたりしていました。

俳優はリラックスを求められます。どんな場でもその状態になることがスキルでもあるでしょう。
とはいえ、毎回メンバーや場所など環境の違う場で安心することは簡単じゃないです。
演劇を上演すること自体も簡単ではない。
それが良いところでもあります。

その一端を探るために、安心できる最小人数でやってみることにしました。
演出家はいませんが、不要ではありません。
それでもまずは、目の前の相手とのコミュニケーションに絞って、創作をしてみます。
そうして、中條くんが協力してくれることで、はじめの場がなんとかやれそうです。

演劇カルチャーがどうなっていくかわかりませんが、私たちのささやかな試みを気にしていただけたら幸いです。

2023.11.20 藤家矢麻刀

藤家と南風盛と中條
藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲の3人体制で出演、スタッフワークを行います。南風盛と藤家による、上演を目的としない俳優のみの稽古会からスタートした集まりです。ミニマルな規模と構成員で、身軽に上演(=発表)をすることを目的としています。

藤家矢麻刀
1996年生まれ、神奈川県川崎市出身。俳優。

南風盛もえ
沖縄県生まれ育ち。こまばアゴラ演劇学校”無隣館”3期生修了後、2019年劇団青年団に入団。

中條玲
長崎生まれ。舞台芸術に出演や制作として参加。日記やテキストの執筆、植物やご飯にまつわる取り組みを実施。



©︎小池舞

出演
藤家矢麻刀、南風盛もえ

スタッフ
企画・演出:藤家矢麻刀、南風盛もえ、中條玲
スチール:小池舞