下北沢通信

中西理の下北沢通信

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超人予備校プレゼンツ トリオ天満宮HERO'S 「ゴリラ林柴犬彦」

超人予備校プレゼンツ トリオ天満宮HERO'S 「ゴリラ林柴犬彦」(インディペンデントシアター2nd)を観劇。
元遊気舎の魔人ハンターミツルギ率いるプロデュースユニット「トリオ天満宮」による新作。遊気舎をやめた後、超人予備校という集団を旗揚げすると聞いていたので、トリオ天満宮(トリ天)の方はやめるのかと思っていたのだが、超人予備校プレゼンツ トリオ天満宮HERO'S と長くなっただけかよ(笑い)。
 相変わらず魔人ハンターミツルギ特有の「ゆるーい笑い」「ゆるーい舞台」である。前者の「ゆるーい笑い」の方は彼の持ち味でもあるから一概に否定はできないが
遊気舎在団時代から年1回のペースでやっていたこの公演、普通は何度もやっていれば演出の手管や勘所も学んで、舞台の完成度はしだいに上がっていくものなのだが、ここだけは本当に変わらないというか、いい加減なんとかせいよと言いたくなった。
 それじゃまったく面白くないかというとそうでもなくて楽しめたことは楽しめたのがやっかいなところ。笑いについての才能は確かにあるのだ、この魔人ハンターミツルギという作家には。ただ、このままでは惜しいとは思うけれど、積極的にだれにでもここは面白いからぜひ見るべきだとも言いがたいところがやっかいなところなのである。
 この芝居を見てまず感じたのは揶揄の対象として愛媛県を選んだという発想の中途半端さなのである(一応、劇中では「エヒメ県」となっていて、実在の愛媛県とはいっさい関係ないということになっている)。

 ただいくらそんなことを言ってもモデルは明白なので(笑い)、芝居を見ている最中ずっとミツルギは愛媛出身でもなんでもないはずだが、なぜに愛媛というのが気になって仕方がなかったのだ。
 あまりにも気になったので「なぜ愛媛県」と聞いてみると知り合いに愛媛県人がいてそれが変な人なんでとか、あまり知らないからあえて選んだという答え。納得できない。そもそも私も常々あの県については夏目漱石の「坊っちゃん」が松山を舞台にしているからといって、あの小説は元々、これはいくらなんでもないだろうというほど田舎として松山を馬鹿にしている話だし、漱石は愛媛出身でもないし、それで漱石を持ち出すほどに地元に人材を欠いているのかといえばその漱石の親友でもあった正岡子規というちゃんとした故郷出身の文豪もいるのになぜスタジアムは「坊っちゃんスタジアム」で野球の名づけ親でもある正岡子規ではないのだというような不条理さにかねがね疑問を感じているということはあった。
 この県には被虐的な県民性があるのかそんな風に思ったことはあったけれど、だからといって松山には坊っちゃん通りというところがあってそこに行くと買いたくもないみやげ物を無理やり買わされてしまうとか、田舎でもっとも攻めやすそうところだから宇宙人がそこに攻めてくるとかいうような無茶苦茶な話は愛媛県にはフェアじゃないだろう。と思ってネット検索したら現在はそういう通りはないのだけれど「坊っちゃん通りのような横丁をイメージ、飲食店や土産物店など懐かしく. 良き時代にタイムスリップできる空間づくりを目指す」などという提言を地元の観光協会か市役所の観光部局が実施したと思われるアンケートのなかで見つけて思わず唖然とさせられた。その中には質問に「松山といえば坊っちゃん」という言葉も見かけたのだが、思いつくことはほかにないのかよ、本当に(笑い)。
 ちなみにhatenaの用語集での愛媛県のところを見てみると「四国三大祭りの一つである新居浜太鼓祭りという祭りの他に野球拳祭りという県外の人が聞くとあり得ない名前の祭りがある。ちなみに脱がない」などと単なる県の紹介なのにどことなく馬鹿にしている雰囲気が感じされる文章*1も。これってどういうこと?
 しかも、「エヒメ県」の話なのに下敷きとなってる物語は桃太郎なのだ。桃太郎伝説は普通、岡山が有名なのだけれど、いろんな場所に伝承が残ってるのでもしかしたらと調べてみたのだけれど、対岸でもある香川にはあるようだが、愛媛(少なくとも松山)ではないだろう。トリオ天満宮の場合、こんなことを気にしていても仕方がないところがあるのだけれど、やはり馬鹿にする相手に対していい加減すぎないか、と思う。しかし、そんな怒りを覚えたりするのにもかかわらずその怒りの内容がどう考えてもどうでもいいことで、そんなことで怒ったりしている自分がちっぽけな人間に感じられてくるので、それがまた余計に苛立たしいのである(笑い)。
 それというのも魔人ハンターミツルギがこんないい加減な設定の芝居をやるからだと理不尽な怒りを覚えて、それでますます八つ当たりをしたいなるのだ。