イアン・ランキン「黒と青」(早川書房)を読了(再々読)。
エジンバラに行く前に一度読んだばかりだったのだが、エジンバラから帰ってから最初の部分をぺらぺらめくりながら眺めていたらそのまま止まらなくなり、ついまた全編を読んでしまった。やはりこの作品は傑作だと思う。1960年代にスコットランドに実在し結局未解決のままになったサイコキラー、バイブル・ジョンを架空の物語のなかに登場させ、そのバイブル・ジョンを現在進行形の模倣犯ジョニー・バイブルと対決させるというアイデアがまず面白いのだが、その両者に興味を抱いているリーバス警部がほかの事件の捜査を続けながら、結果としてその両者に肉薄していく。ともにジョニー・バイブルに迫っていくバイブル・ジョンとリーバスのどちらが先に犯人にたどりつくのか。普通の作家だったら、これだけでも一冊の本を書いてしまいそうなところだが、「青と黒」ではグラスゴーのギャングの手下が起こしたと思われるエジンバラでの殺人を追うリーバスが逆に過去に手掛けたスペーブン事件の時に不正捜査(証拠の捏造)に関わったのではないかという理由で、グラスゴーの警部の捜査対象となってしまう。
最初に読んだ時には1冊目だということもあって気がつかなかったのだが、このためリーバスはお目付け役としてかつての相棒モートンを見張りにつけられ、普段単独捜査ばかりのリーバスだが、この作品ではこの二人が名(迷)コンビ復活とばかりに珍道中を繰り広げることになる。ほかにもおなじみの人物が登場するし、シリーズを読み続けてきたファンに対するサービスも満点である。
あえて、欠点を探すとすればそんな風にばらばらの事件が最後に一緒に大団円を向かえるなんていうのは都合がよさすぎるじゃないかということだが(笑い)、読んでいる時は次々と起こる事件に引っ張られてそんなことを考えさせないで一気に読ませてしまうというのがイアン・ランキンのうまさだと思う。
エジンバラでは「RUBUS TOUR」というこのシリーズに関係のある場所を回る観光ツアーにも参加してきて、その模様はどこかで書こうとは思っているのだが、残念なのはその時のガイドによると噂では聞いていたが、ランキンがこのシリーズを書き継ぐのはこの秋に発売される新作も含め、あと2冊ということがどうやら規定事実だということが確認できたことだ。その後、ランキンは今度はK・ローリングスばりのファンタジー小説の新シリーズを書くといっているらしい。とりあえず、エジンバラではイアン・ランキンのリーバスもの以外の小説を何冊か買ってきたのでひとまずこれを読んでみることにしたいが、翻訳では次に原作はすでに読んでいて、シリーズの前半ではこれが傑作だと思っている「Tooth and Nail」が出版されるはずなのでそれを楽しみにしたい。
しかし、初読はともかくとしても7月に読んだばかりのこの小説の大事な部分(ジョニー・バイブルが結局だれだったのかとか)をすっかり忘れたりしているのは認知症がはじまっているきざしかもしれないとちょっと愕然。おかげで再び楽しむことができたのではあるが(笑い)。