下北沢通信

中西理の下北沢通信

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劇団ジャブジャブサーキット「猿川方程式の誤算あるいは 死亡フラグの正しい折り方」@下北沢ザ・スズナリ

作・演出=はせひろいち
◆CAST
栗木己義…★
コヤマアキヒロ…★
岡浩之
伊藤翔
郄橋ケンヂ
中野俊
荘加真美
咲田とばこ
中杉真弓
なかさこあきこ
まどかリンダ
谷川美穂
空沢しんか
はしぐちしん
丹羽亮仁
杉田愛憲
教仙拓未

★はダブルキャストです。


◆STAFF
作・演出 はせひろいち
照明 福田恒子
音響 松野 弘
舞台美術 JJC工房
舞台監督 中野 俊
宣伝美術 石川ゆき
制作 劇団ジャブジャブサーキット

 ジャブジャブサーキット(はせひろいち)は青年団平田オリザ)、弘前劇場長谷川孝治)、桃唄309(長谷基弘)らと並んで、90年代後半の「関係性の演劇」を代表する劇団(劇作家)である。その作風には大きく2つの特徴があり、それが「関係性の演劇」の作家たちのなかではせの存在を目立たせている。そのひとつはその作品の多くが広義のミステリ劇(謎解きの構造を持つ物語)であること。もうひとつがはせ作品のなかで積み重ねられる小さな現実(リアリティー)の集積がより大きな幻想(虚構)が舞台上で顕現するための手段となっていることである。

 演劇的なリアルがそのもの自体が目的というわけではなく、日常と地続きのようなところに幻想を顕現させるための担保となっているという構造は実は平田ら同世代の作家よりも、五反田団(前田司郎)、ポかリン記憶舎(明神慈)ら私が「存在の演劇」と位置づけているポスト「関係性の演劇」の作家たちとの間により強い類縁性を感じさせるもので、その意味では世代の違う両者をつなぐような位置に存在しているといえるかもしれない。

 リアルな日常描写の狭間から幻想が一瞬立ち現れるというような構造の芝居ははせが幻想三部作と呼んだ「図書館奇譚」「まんどらごら異聞」「冬虫夏草夜話」ですでにほぼ確立されていたが、その後に上演された「非常怪談」「高野の七福神」といった作品では作品のなかに漂う幻想との距離感がより一層近しいものとなり、いわばひとつの作品世界のなかに日常世界と幻想世界が二重写しのように描かれるという手法が取られた。
「猿川方程式〜」もそうした作品には違いないが、ここではミステリ劇としての謎解き構造の色合いが強いかもしれない。ミステリ劇として考えた時にははせの舞台は謎が完全に解き明かされることはなく、真相が暗示されるだけのいわば余剰の部分が多いことだ。
これが小説ならば読者の不満の種ともなりかねないところなのだが、ミステリ劇じゃなくとも舞台上で全てが示されるわけではないという演劇の特製とうまく合致して余韻が残るのがはせワールドの魅力ともいえそうだ。