下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団リンク キュイ「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」(3回目)@小竹向原・アトリエ春風舎

青年団リンク キュイ「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」(3回目)@小竹向原・アトリエ春風舎

作:綾門優季青年団) 演出:得地弘基(お布団/東京デスロック)

この世には、決して受け入れられないひとがいるということ。
決して近寄ってはいけない場所があるということ。


ある日、夜の公園で突然起こった無差別殺人事件。誰かを狙った犯行というわけでもなく、その日、たまたま犯人に出くわした人物という共通点しか被害者たちには存在しない。悪い人物も良い人物も、等しく殺されている。マスコミはそのような事件を起こした動機を必死に探ろうとするが、最近も遠い昔も、何も出てこない。家庭環境に原因も特になさそうだ。その事件を目撃した市民は、あの犯行が何の動機もないものだということを確信していたが、それを証明する術はなく、ただ沈黙した。


出演

大竹 直(青年団) 岩井 由紀子(青年団) 西村 由花(青年団) 矢野 昌幸(無隣館)
井神 沙恵(モメラス) 中田 麦平(シンクロ少女) 船津 健太 松﨑 義邦(東京デスロック)
スタッフ

照明:黒太剛亮(黒猿) 音響:櫻内憧海、渡邉藍
映像:得地弘基(お布団/東京デスロック) 舞台監督:篠原絵美
舞台美術:山崎明史(デザイン事務所 空気の隙間)  衣裳:正金彩(青年団
演出助手:三浦雨林(青年団/隣屋) 制作:谷陽歩

総合プロデューサー:平田オリザ
技術協力:大池容子(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

3回目の観劇。2回目の観劇後考えたことを*1再確認したくなったのであるが、この作品は奥が深い。その際の解釈は途中までは正しいが、ミステリ的な言い方をするならば真相にはたどり着いておらず推論が根本的に誤っていたことが判明した*2
さて、2回目の感想の最後に「もう一度観劇するので、解答編はその時書くけどこの作品は幻想譚などではなく、巧緻に創作されたミステリ演劇です」などといわくありげなことを書いたのは「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」は4つの世界がループする構造を持つ世界と思い込んでいたが、
そうじゃないことに気がついたからだ。
 「射殺犯のいる学校」の世界の直前に主人公が彼女の部屋みたいなところで目覚めるシーンがある。ここと次の学校のシーンは連続していてひとつの場面みたいに見えるが、実際には意識のとぎれがあり、ふと気がつくと次の学校の場面に移行している。つまり、これは別の場面でここでは犯罪らしい犯罪は起こっていなかったけれど、これは違う世界でならば世界は4つではなくて、5つあったことになる。このことは主人公の視点人物も途中で気がついていて、それゆえ、他の場面をすべて試して無限ループからの脱出にことごとく失敗してきた主人公はここに唯一いる人物に干渉してこの世界から抜けだそうと試みる。
作者としてはここで終えることもできたはずだが、実はこの物語はこの解答では終わらない。気がつくと視点人物はまたループの最初に戻されていて、しかも今度は先ほどまで男性だったはずの視点人物も女性に代わっている。それは以前のループでは毒殺魔となっていた女性だ。
 ところが彼女は今度はいつものようにはバイトにはいかなくて、自宅のソファ(あるいはベッド)に寝転んだままで毒(のようなもの)をのみこんでそのまま寝てしまいそのまま暗転となり、そのままループから出られたか出られなかったという先の行く末は明らかにはされずそのまま芝居は終わる。
新装版 七回死んだ男 (講談社文庫)
 

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:こういうことになりがちなのでやはり脚本は欲しい