下北沢通信

中西理の下北沢通信

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SAF+PRODUCE #3『坂の上の家』@シアターグリーン BASE THEATER

SAF+PRODUCE #3『坂の上の家』@シアターグリーン BASE THEATER

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【SAF+PRODUCEとは】

毎年7月から8月にかけて開催されているシアターグリーン学生芸術祭(Student Art Festival=通称SAF)は、2018年に12回を迎え、来場者総数は2万5000人に及んでいます。

学生演劇界の登竜門との呼び声も高いSAFから巣立ち、名を馳せている団体・俳優も多いです。しかし、いまだ日の目を見ない才能もあり、彼らを支援し、周知させるため、SAF+という枠組みが設けられました。

今回は過去のSAFで俳優賞を受賞した俳優を中心に据えて、最近特に活躍が注目されている文学座の新鋭・稲葉賀恵を演出に迎え、OMS戯曲賞大賞に輝いた松田正隆の名作戯曲『坂の上の家』を上演します。

【ものがたり】

昭和62年、夏。

辿り着くのに一苦労する坂の上に本上家はあった。いつも通りの日々を過ごす本上家。

そこへ、普段は来ることのない訪問者が現れる。変わらぬもの、変わっていくもの。

それぞれの想いを胸に秘め、茶袱台を囲む彼らのこれまでと、これから。


【演出家・稲葉賀恵】

文学座所属。2013年に文学座アトリエの会『十字軍』で初演出。

主な演出作品に、『野鴨』(作:イプセン 於:文学座アトリエ)、『川を渡る夏』(作:渡辺えり 於:すみだパークスタジオ倉)、『誤解』(作:カミュ 於:新国立劇場小劇場)など。他にシアタートラム、シアターサンモール、穂の国とよはし芸術劇場PLATアートスペース、日生劇場ピロティでも演出経験あり。

シアターグリーン BASE THEATERには『楽屋』(作:清水邦夫)以来、二度目の登場。

SAF+PRODUCE #3 『坂の上の家』


作:松田正隆

演出:稲葉賀恵(文学座


出演:大西一希(SAF Vol.11俳優賞)

   吉田裕太(オーディション合格)

   新田千佳(SAF Vol.11俳優賞)

   太田ナツキ(SAF Vol.10俳優賞)

   中村彰男文学座


【公演日程】

2019年4月5日(金)~7日(日)全6ステージ


4月5日(金)14:00~/19:00

4月6日(土)14:00~/19:00

4月7日(日)13:00~/17:00

※受付開始は開演の1時間前。

※開場は開演の30分前。

※受付時にお渡しする整理券の番号順にご案内いたします。


【料金】(日時指定・全席自由)

前売:3,500円 当日:4,000円

※当日券は開演の30分前より劇場にて販売いたします。


【チケット取扱】

2019年2月23日12時発売開始

CoRich!舞台芸術 https://ticket.corich.jp/apply/96503/

【スタッフ】

舞台監督:水澤桃花(箱馬研究所)

舞台美術:角浜有香

照明:朝倉白水

音響:丸田裕也(文学座

宣伝美術:田中雄一

演出部:熊谷ひろたか 長谷川浩輝

制作:田中雄一

主催・製作:(株)アリー・エンターテイメント

協力:シアターグリーン

 長崎三部作として知られる松田正隆の現代口語群像会話劇の二番目の作品。最初の「紙屋悦子の青春」は原田知世の主演で映画化され、三番目の「海と日傘」は岸田國士戯曲賞受賞作となったから、三部作のなかでは一番注目の度合いは低かったかもしれない。
 それゆえ、時空劇場による松田正隆自らの演出の初演、OMS戯曲賞受賞に伴う竹内銃一郎演出版は見たことがあってこれはどちらもとても素晴らしいものであったが、その後はそれに匹敵するような上演は見たことがなかった。ところが今回のSAFによる上演は若い俳優らによる演技が魅力的で、過去の公演に肉薄するような出来映えを感じさせた。
 この公演はシアターグリーン学生芸術祭(SAF)のプロデュース公演。文学座所属の気鋭の演出家、稲葉賀恵が演出を担当。キャスト5人のうち3人を過去に同学生芸術祭で俳優賞を受賞した俳優から選んだ(残る二人は文学座とオーディションによる選出)。
 この作品には兄の婚約者である陽子と妹の直子という2人のヒロインが登場する。こんな書き方をしたのはこの2人のうちどちらが主体なのかという印象が演出、演技、キャストにより、変わってくるからだ。
 松田正隆の初期作品の特徴は作品に登場するヒロイン像がリアリティーのある人物というよりは「妄想の産物」とでもいいたくなるほど理想化された人物であることだ。これを具現化していたのが時空劇場の永遠のヒロインなどとも呼ばれた内田淳子の存在感。時空劇場版では内田がそれを演じることで人物造形に実在感を与えていたといえなくもない。
 一方、竹内版で輝きを放っていたのがオーディションで選ばれまったくの無名であった直子役の洪仁順であり、当時はそのことに何の疑問も
抱いていなかったか、時空劇場版と異なり彼女が演じた直子がヒロインだと受け取り観劇していた記憶がはっきりと残っている。そして、まことに失礼きわまりないのだが、陽子役が誰でどんな演じ方をしていたのかがどうしても思い出せないのだ。
 それでは今回の上演はどうだったのかということになると直子と陽子のバランスはよくも悪くも現実的に、リアルで突出したところはなかった。そんな中で直子役を演じた新田千佳はその役柄を魅力的に演じていて、ヒロインかどうかは別にしてこの舞台の基調となっているのは彼女の存在だと感じさせた。考えてみればともに突出した存在に見えた松田演出の陽子にも竹内演出の直子にもそれぞれに演じた女優の資質はあるとしても男が物語ヒロインに託す幻想の具現化のようなものがあったが、演出家が女性であることが関係しているかどうかは定かではないが、稲葉演出、そして俳優の演技は等身大でそういう人もいたかもしれないという範囲内にとどまっていた。そしてあくまでそういう演出ということであれば作品の中で象徴性という意味では重要な存在ではあるけれど出番が限られていて、薄幸の人の感じが強い陽子は分が悪い。陽子を演じた太田ナツキはよく演じていたし、普通にいい女優と思うが、この役柄では線が細く見えるし、ヒロイン=直子の舞台だったと思う。