下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

1997年演劇ベストアクト 下北沢通信98年3月号

1997年演劇ベストアクト 下北沢通信98年3月号

1、維新派「南風」
2、ナイロン100℃「カラフルメリィでオハヨ’97」
3、月の岬プロジェクト「月の岬」
4、ク・ナウカエレクトラ
5、プロジェクト・ノーヴェンバー「休憩室」
6、ジャブジャブサーキット「非常怪談」
7、トリのマーク「シバとタペタ娘」
8、桃唄309「幸せな話」
9、上海太郎舞踏公司ダーウィンの見た悪夢」
10、東京国際フォーラム柿落し公演「東京原子核クラブ」


 97年のベストアクトが今号の特集。 そんなわけで、この下北沢通信でも今 回はいつもと趣向を変えて、昨年の演 劇界を振り返ることにしたい。
 好舞台は数々あるがベスト1となれ ば維新派の野外劇「南風」を挙げるし かない。曼荼羅を思わせる巨大な路地 を出現させた林田裕至の美術、内橋和 久によるバラエティー溢れる音楽の素 晴らしさはいうまでもないが、中上健 次の小説「千年の愉楽」「奇跡」を原 作としたせいか役者たちもこれまでの ジャンジャンオペラと一味違う骨太な 男芝居を見せてくれた。
 ナイロン100℃KERAの獅子奮迅と でもいうべき大活躍も目立った。一昨 年を「松尾スズキの年」とすれば昨年 は「KERAの年」だった。年間五本の 公演で、そのうち「カラフルメィでオ ハヨ’97」「インスタント・ポルノグ ラフィ」「カメラ≠万年筆」はそれぞ れ全く異なる作風ながら甲乙つけがた く、青山フェスで上演した別役実作品 「病気」もこれに迫る舞台だった。
 なかでも代表作の再演である「カラ フルメリィ~」はKERAらしい笑いに くるんで老いと死というシリアスなテ ーマを正面から描いたもので、みのす け、山崎一らのおかしくも真摯な演技 が忘れ難い印象を残した。
 平田オリザも相変わらず精力的だっ た。サル学の研究室を舞台に人間はな ぜ戦争するのかについてメタフォリカ ルに描いた「バルカン動物園」、文学 座との共同作業が見事な舞台成果につ ながった「月がとっても蒼いから」は いずれも水準以上。  しかし、この一本ということなら松 田正隆の新作を京都の役者らを使って 舞台化した「月の岬」を選ばざるをえ ない。一昨年にオーディションにより キャストを選定、春先に京都でプレ公 演を行なうなど周到な準備が舞台の完 成度の高さに結びついた。
 関係性の演劇では方法論を深めつつ ある三人のHASE(弘前劇場の長谷川孝 治、桃唄309の長谷基弘、ジャブジャブ サーキットのはせひろいち)の活躍も 見逃せない。
 長谷川孝治の作演出によるプロデュ ース公演「休憩室」は弘前劇場の俳優 に加え、東京、東北各県、さらに中国 人の女優が加わるきわめて言語的、身 体的に多様性に富む役者陣で、舞台自 体も長谷川の唱える現代口語津軽弁演 劇をより普遍化したバラエティーに溢 れる日常語が飛び交うポリフォニック な舞台空間を作りだした。
 一方、ジャブジャブサーキットのは せひろいちは日常描写から立ち上げな がらも、日常の隙間に潜む非日常の「 もののけの世界」を紡ぎだす。「非常 怪談」はある家の通夜を舞台に重層化 した非日常の世界を描き出したこれま での方法論の集大成で、良質のホラー 劇としても見られる好舞台だった。弘 前劇場は八月に初の関西公演を予定、 ジャブジャブも六月に新作、秋に「非 常怪談」の再演と二度の関西公演を予 定しているので関西の演劇ファンにも ぜひ見てもらいたい。
 桃唄309の長谷基弘もプロデュース 公演の「KAMACHI」と「幸せな話」 「五つの果実」といずれも充実した舞 台を見せてくれた。暗転なしに短いシ ーンをつなぎながら、全体を俯瞰する ことにより、歴史やある種のコミュニ ティー(共同体)といった個人を超え た存在を浮かび上がらせていく、その 方法論はきわめて斬新で今、もっとも 注目すべき作家といっていい。ここで は幸福の王子の物語と重ねあわせて、 街のはずれでひたすら穴を掘る男を描 いた不思議な雰囲気を持つ舞台「幸せ な話」を選ぶことにしたい。
 身体性の演劇ではク・ナウカの「エ レクトラ」に尽きる。タイトルロール を演じた美加理の存在感は圧倒的で、 宮城聰独特の方法論が実を結びつつあ ることを確信できた。上海太郎も代表 作「ダーウィンの見た悪夢」の再演で その存在を示してくれた。昨年はソロ 公演の「ABSURD」、ダンスオムニバ スの「ジャックは箱の中」といずれも 雰囲気の異なる三公演。しばらくは公 演の予定はないというが、今年はまた 集団による新作が見たいものである。  今、個人的にもっとも注目している のがトリのマークである。ギャ ラリーなど既存の劇場以外の空間を使 い少数の観客の前で公演する特殊なス タイルを取っているため知名度こそ低 いが、作演出の山中正哉のセンスは抜 群。昨年は精力的に年間四公演をこな し、いずれも水準の高い作品だったが 元・上海太郎舞踏公司の沖埜楽子が客 演し、看板女優の柳澤明子とコンビを 組んだ「シバとタペタ娘」「靴屋のつ くった渓谷」が強い印象を残した。
 マキノノゾミ東京国際フォーラム の柿落し公演となった「東京原子核ク ラブ」、青年座に書き下ろした「フユ ヒコ」など物理学者を主人公に劇作家 として新境地を開いた。戯曲のまとま りは「フユヒコ」だが、舞台としては 主役の有馬自由が好演した「東京原子 核クラブ」に軍配を上げたい。