下北沢通信

中西理の下北沢通信

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コロナ後のエンタメの姿模索する無観客ライブその2 ももいろクローバーZ「Behind closed doors『2020 次が始まり』」

ももいろクローバーZ「Behind closed doors『2020 次が始まり』」


ももいろクローバーZの無観客ライブ「Behind closed doors『2020 次が始まり』」と高城れによる無観客ソロライブ「CongratuRenichan~The 02 season 202

ももいろクローバーZ「Behind closed doors『2020 次が始まり』」2020年6月25日 セットリスト

SE. overture ~ももいろクローバーZ参上!!~
01. 行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-
02. stay gold
03. 猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」
04. ゴリラパンチ
05. マホロバケーション
06. Nightmare Before Catharsis
07. Re:Story
08. The Diamond Four
09. 天国のでたらめ
10. クローバーとダイヤモンド
<アンコール>
11. 走れ! -ZZ ver.-
12. 吼えろ
13. ザ・ゴールデン・ヒストリー
14. Chai Maxx
15. 笑一笑 ~シャオイーシャオ!~

 ももクロはコロナ後のエンタメのあるべき姿を模索するために独自に感染症の専門家と協力して「MSRS 新型コロナウイルス感染症『無観客ライブ』感染対策ガイドライン 」というルール*1を策定した。これは「無観客」と銘打っている通りに観客を入れない状態でライブを行った場合の様々なリスクを勘案した場合に出演者(パフォーマーだけでなく、演奏家なども含む)やスタッフ陣が守らなければならないルールを決めたものだ。
 このガイドラインはあくまで無観客を想定したものだが、ももクロ陣営では近く観客を入れる場合の「感染対策ガイドライン」についても引き続き策定、公開することを予定しており、具体的な目標としてはすでにももクロは8月1日、2日に西武ドームメットライフドーム)で行われるライブを最高程度の感染対策を行ったうえでの有観客ライブとすることも公表している。
 エンタメ産業界隈ではすでにEXILEが所属するLDHが年内のすべてのライブ活動を休止することを明らかにしており、特にスタジアム級の大規模ライブについてはどこも開催するめどさえ立っていないのが実情だ。
 そういう中でももクロの試みは業界の今後を占う意味でも注目されるのだが、今回のももいろクローバーZ「Behind closed doors『2020 次が始まり』」は自粛以降最初のももクロのライブとして注目すべきものになった。
 ライブ演出についてはMSRS(新型コロナウイルス感染症『無観客ライブ』感染対策ガイドライン)では以下のような規定が提示されている。

【演出】
演出はなるべく密を避けるよう⼼がけます。
2メートル以内に接近するダンス等演出は、出演者の皆様の同意を頂いた上採⽤します。
ダンス、振り付け以外接近する場合は極⼒対⾯状態(顔と顔が相対する状態)にならないように⼼がけます。
バックミュージシャン同⼠の⽴ち位置の間に、アクリル板などを⽴てて⾶沫感染を防ぎます。
出演者どうしが接触する際には、本番直前に、当事者に⼿指の消毒を⾏っていただきます。

(参考:厚労省HPのQ&Aより)
濃厚接触かどうかを判断する上で重要な要素は⼆つあり、
1.距離の近さと
2.時間の⻑さです。
必要な感染予防策をせずに⼿で触れること、または対⾯で互いに⼿を伸ばしたら届く距離(1m程度)で 15 分以上接触が合った場合に濃厚接触者と考えられます。事前にネットミーティングを⾏い、リハーサルがスムーズに⾏えるようにします。

 ポイントはいくつかあって、まずメンバーはやはり高城れにのソロと同様に全員がマスクを着けて出てきた。さらに既存曲の振付に細かく手直しを入れて、従来であれば接触している振付をそれをしないように変更している。
 この日は最初の曲が「行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-」だったわけだが、曲の最後の方に近い百田夏菜子がエビぞりジャンプをする少し前にメンバー(現在は玉井詩織)の背中を跳び箱の馬のように飛び越える有名な振付があるのだが、この日はそれをやらないで代わりに夏菜子と玉井詩織が側転する(玉井はロンダード)に差し替えられていた。
 個々の詳細は完全には把握できなかったが、他にも曲ごとに振付を直している部分があるのではないかと思う。ただ、接触なしのルールをいつまで適用するのかは不明だが、このルールにしたがうと「黒い週末」のように振付をかなり大幅に直さないと上演できないものもあり、そうした曲は当面歌われない可能性もある。
 コロナ対策というわけではないが、この日の配信映像を見て面白かったのは複数のカメラのスイッチングとパフォーマーそれぞれの立ち位置や目線の配り方の複雑な組み合わせを実行していたことだ。特に面白かったのは 「The Diamond Four」の時の演出。もちろん、通常のアイドルライブ配信の時のような手持ちカメラ1台tかではなくて、7~8台のカメラをフル活用できる資金力もあるGYAOのプラットフォームだからこそ実現できた演出だとは思うが、撮影機材が観客と演者の間に入り込んでしまい観客の視野を塞いでしまうことはライブ中継における最大のタブー(禁忌事項)であるらしく、この日は舞台上にまでカメラが入り込むなど無観客だからこそ実現できた演出ということらしい。
 このカメラのスイッチングとそれぞれのカメラマンの位置などはあらかじめ全部が指定されているわけではなく、その瞬間、瞬間にももクロのメンバーと撮影者、スイッチャーが判断してのアドリブによる部分がかなり多いのではないかというのがテレビ業界で仕事をしている知人の見解であった。通常のライブではあーりん(佐々木彩夏)がカメラ位置とどのカメラがいつ撮影をしているかをすべて把握していて、必要な時に全てカメラに目線を送っているというのはモノノフの間では有名な事実だが、通常のライブでは他のメンバー(特にれにと夏菜子)はカメラよりも観客に目線を送ることが基本なのに対して、今回のライブでは全員があーりんと同等の集中力でカメラを意識した動きを心がけていたように思えた。
 さらにこの日は無観客ライブをテレビの音楽番組の中継のようなものではなく見せる工夫も試された。ライブとしての臨場感を高めようという狙いで、ひとつは冒頭の「 overture ~ももいろクローバーZ参上!!~」のコールをモノノフ有志に音声データとして募集し、それをovertureの音源にひとつひとつ張り付けて、重ね合わせていくことで観客参加型overture特別音源を製作し、披露しようという試みで、応募総数が800人強だったこともあってやや音が薄かったのではないかとの不満も一部にはあったようだが、私が聞いたところによればかなり成功していたと思う。そういうことが可能かどうかはよく分からないが、再び無観客ライブが行われるごとに今回の音源にさらに送付されてくる新たなコール音源を付け加えていくことで、実際の数万人のコールに近づいていくのではないか。
 もうひとつがZOOMを使った演出だが、これはうまくいった部分、無理だった部分の両方があった。ZOOMで「走れ! -ZZ ver.-」の時にいっせいに消灯させようという企画はももクロのコメントでは「何とか成功」という風に持っていってはいたが、タイムラグがひどくて、「やっぱり無理」だったのではないかと思う。ZOOM参加者の誰かに焦点を当てて呼びかけるというのも「羨ましい」の声はあったが、正直言ってやはりタイムラグのせいでスムーズに進行していたとは思えなかった。
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 やはりファンに音声情報を募集したアンコールのコール後は一転4人の間に透明なアクリル板を立てて舞台空間を4つに区切り、マスクのない素顔でメンバーが登場。ソーシャル・ディスタンスを保ったうえでのパフォーマンスが行われた。舞台を4つに区切ったのでは複雑なフォーメーションのダンスはできないので、そのこともあり、ファンのZOOM映像や子供たちのダンス映像などと組み合わせながら、4人がほぼ正面を見てユニゾンに近い形で歌う楽曲を集める結果になった。
 この日のももクロルールは複雑なフォーメーションダンスを行うモーニング娘。や大人数の48グループや坂道グループには適用できない。マスクの件も含め追随できない(しない)だろうとは思われるが、あえて厳しいルールを自らに課して、道を切り開いていくことはももクロに課された使命なのだろうとも思わされたパフォーマンスなのであった。
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