下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

KARAS(勅使川原三郎)アップデイトダンス No.74「妖精族の娘」@荻窪アパラタス

KARAS(勅使川原三郎)アップデイトダンス No.74「妖精族の娘」@荻窪アパラタス

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 前作「タルホ」*1に続きこの「妖精族の娘」でも舞台と客席の間に半透明の紗幕が張られた。前回は作品に向けた演出かと思ったが、これは勅使川原三郎流のコロナ対策で、しばらくはこの形式の舞台を続けるのかもしれない。
 ただ、この幕が張られることでパフォーマーは見にくくなるのだが、前回は幕に映し出す映像の多用と幕に影を映し出すような凝った照明、今回は朧げにしか見えなくなる効果を逆に活用して、照明効果と紗幕による効果でいかにも「妖精の娘」が現れそうなまるで霧に覆われた森の奥のような幻想的な場所に見せている。
 勅使川原三郎は黒子的な役割で少しだけ登場はするけれども「妖精族の娘」は表題通りに妖精を演じるというか体現している佐東利穂子のソロダンスに近い。
 バレエのようにリフトやポワント技法で中空に浮くというような感覚を見せることはないが、佐東の醸し出す非人間的な空気感は「ラ・シルフィード」に近いものかもしれない*2
 原作小説の抜粋なのか、それとも小説からインスパイアされたオリジナルのテキストなのかはよく分からないのだが、劇中では妖精についての文学的なテキストが朗読されて*3いて、全体の空気感はこの朗読されたテキストと作品内での佐東の妖精を思わせる動きと幻想的な劇伴音楽のミクスチャーとして構成されていく。
 見終わってからダンセイニ卿の幻想小説「妖精族の娘」が原作というコンテンポラリーダンスとしては珍しい異色の作品という印象が吹き飛んで、ダンスとしての王道感だったのはバレエだけではなく、日本舞踊などでも「鷺娘」など人間ではないものがよく踊られるのはそれが擬人化されたなにかではあったりは出来ても結局は人間しか演じることができない演劇に対し、人を超えた神羅万象、精霊などを直接的に表現できるというのがダンス(舞踊)の特性であるからかもしれない。そして、そうした意味ではアパラタスの狭い空間は幻想の森となり、そこに佐藤は「人間ならぬ何か」として立ち現れたのである。

幻想小説家ロード ダンセイニの同名の短編を基にした
佐東利穂子の身体詩、小さな野生のもの(妖精)は願う
「魂をもっていつか人間のように死んでみたい」
緑苔の奥の沼に住む妖精にとって生きるとは何か、
彼女の身体が奏でる音楽を聴いてみよう。
勅使川原三郎

演出・照明・美術 勅使川原三郎
出演 佐東利穂子 勅使川原三郎

【日時】
8月21日(金)20:00
8月22日(土)20:00
8月23日(日)16:00
8月24日(月)20:00
8月25日(火)休演日
8月26日(水)20:00
8月27日(木)20:00
8月28日(金)20:00
8月29日(土)16:00
受付開始は30分前、客席開場は10分前

【料金】
一般 予約 3,500円 当日4,000円
学生 2,500円 *予約・当日共に


*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:人間が登場せずに妖精のみ出てくるという意味では「レ・シルフィード」の方かもしれない。

*3:これも佐東が朗読しているものの録音のようだ。