下北沢通信

中西理の下北沢通信

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Baobab PRESENTS『DANCE×Scrum!!! 2020』(1日目)@池袋あうるすぽっと

Baobab PRESENTS『DANCE×Scrum!!! 2020』(1日目)@池袋あうるすぽっと

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以前は若手の振付家が自分の作品を披露できる場としてのダンスショーケースがいろいろあった。JCDNの「踊りに行くぜ!!」がそうだし、桜井圭介が企画した「吾妻橋ダンスクロッシング」もあり、それぞれ注目を集めていた。横浜ダンスコレクションなどのダンスコンペティションはまだあるけれど、振付家にとってはダンスショーケースにはそうしたコンペに向けてのワークインプログレス的な意味合いもあり、作品制作の過程としては両方を合わせてセットのような部分もあった。
そういう中でこの『DANCE×Scrum!!! 2020』を企画しているBaobabの北尾亘は東京ELECTROCKSTAIRSの横山彰乃や高橋萌登とともに若手のダンサー・振付家を束ねコンテンポラリーダンスを担う中心的な役割を果たし始めているのではないかと思う。もっとも、前述したJCDNや桜井圭介がキュレーター的な役割も担っていたのに対し、北尾には仲間のダンサーたちに発表の場を与えたいとの思いの方が強いのかもしれない。北尾も高橋らも公募したうえで、選考することもしていないと思うが、そうであっても、あるいはそうであるからこそ何度か続けていると参加者の顔ぶれにそれぞれの色が見えてくる。そこが面白い。
 今回は16組が出演。ステージプログラムは、岡本優(TABATHA)/熊谷拓明、五十嵐結也、宇山あゆみ×西村大樹、大森瑶子、北尾亘(Baobab)、田村興一郎、藤村港平の作品を上演する。ホワイエプログラムは中村蓉、中屋敷南、浅沼圭、伊藤まこと・甲斐ひろな、中村理、スッポンザル、和太鼓+ダンスユニット まだこばやし、石原朋香、吉沢楓が出演する。

ホワイエプログラム

『DANCE×Scrum!!! 』は劇場でのステージプログラムとロビーパフォーマンスでもあるホワイエプログラムの2本立てなのだが、初日は開幕祭とも銘打って、劇場内での公演はなく、ホワイエプログラムのみが行われた。登場したのは次の5組。

中屋敷南Future Fighters!「恋の贅沢病」
中村理「カミング・スーーーン」

中村蓉「理の行方vol.6」

浅沼圭「淡いpinkのBody」
伊藤まこと・甲斐ひろな「here/there/everywhere」

 もっとも注目していたのは中屋敷南Future Fighters!「恋の贅沢病」。前回の『DANCE×Scrum!!! 』で上演された『ドロップ』という作品が非常に面白かった印象が強かったからだ。興味は持っていたが、チラシなどで見かけることはあっても、スケジュールが重なっていて見ることができずきょうまで来てしまっていた。中屋敷南の作品の特徴は単なる身体表現というのにとどまらず映像や生で歌われる音楽などと一体のものとして作品が構築されていること。しかもこのダンスショーケースで見た作品ではアイドルポップやアニメーションなどとも組み合わせられていて、単にダンスを振り付けるという以上の作品構想力を持つコンテンポラリーダンスの世界では珍しい才能と思う*1
 巨大な透明なビニール製の球の中に3人のパフォーマーが入って登場する冒頭の場面からちょっと度肝を抜かれるが、球の中は非常に濃密な「密」の世界で、これは直接的な表現ではないが、この公演自体が置かれている観劇状況も含めて、ポストコロナの新しい生活様式などというものに対する揶揄的な表現にも感じられた。
 この作品に出演しているのは中屋敷南、ドラゴン龍、KuKoという3人の女性パフォーマーだが、当日パンフを見ているとドラゴン龍は映像(デジタルコラージュ)、使用楽曲がKuko「ハート食べたい」「恋なんじゃない?! 100%りんごジュース」とそれぞれクレジットされており、振付家、映像作家、音楽家の3人によるオリジナル作品をコラボレーションしたプロデュースユニットということでもあるようだ。楽曲アレンジに悪い芝居の岡田太郎の名前があったことにも驚かされたのだが、Perfume=ライゾマ=MIKIKOとはまるでテイストは違うが、アイドルポップ的な表現としてもレベルが高いものに仕上がっていたのではないだろうか。
 5組の中で一番出自不明の独特の身体性を感じさせたのが中村理「カミング・スーーーン」だ。ともするとでたらめに暴れまわっているだけのように思う時もあれけれど、単なる素人ではない身体のありようも感じられるからだ。舞踏かと思うとそれでもないし、バレエやジャズ、ヒップホップなど既存のダンススキルによって鍛錬されたのとは違うんだというのは見ていれば分かってくる。作品としてはもう少し表現領域の広がりが欲しいところもあるが、こういうのもコンテンポラリーダンスの魅力だといえばそうかもしれない。
 ジャンルとしてのコンテンポラリーダンスの範疇によくも悪くも嵌まった作品なのは中村蓉「理の行方vol.6」。ダンスショーケースにこういうのが1本入っていると全体の印象が締まってみえる。ダンサー4人による作品でダンス作品としても良くできている。ただ、それが持ち味でもあるのだろうが、きれいに作られすぎていてはみ出すものがあまりない。ないものねだりだが、こういうラインナップで見ると物足りなく感じてしまう部分もある。
 浅沼圭「淡いpinkのBody」は新体操出身だけあって、身体の柔軟性、強靭性には特筆すべきものがあるが、だからといって新体操ですという動きがあまりないのも好感が持てた。
 伊藤まこと・甲斐ひろな「here/there/everywhere」はダンス版東京巡りのようなコンセプト。面白いところもあるが、ダンス作品としてはもう少し身体性が前面に出ていてほしいとも思った。

キャスト/スタッフ
【ディレクター】北尾亘(Baobab) 【舞台監督】熊木進・久保田智也
【照明】中山奈美・久津美太地(Baobab) 【音響】相川貴・中村光彩 
【映像撮影・製作】中瀬俊介(Baobab) 【宣伝美術】阿部太一(TAICHI ABE DESIGN INC.) 
【オリジナル楽曲製作】岡田太郎(悪い芝居) 【チケット販売協力】株式会社レキップ・トロワ
【企画運営】米田沙織(Baobab)・傳川光留(Baobab) 【製作助手】染宮久樹 
【制作】白井美優(Baobab) 【プロデューサー】目澤芙裕子(Baobab) 

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*1:むしろ、スプツニ子!ら現代美術系の作家との近親性を感じさせる