下北沢通信

中西理の下北沢通信

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オパンポン創造社「オポンパン☆ナイト〜ほほえむうれひ〜」@こまばアゴラ劇場

オパンポン創造社「オポンパン☆ナイト〜ほほえむうれひ〜」@こまばアゴラ劇場

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 オパンポン創造社の公演を見るのは初めて。今回は短編3本立てというスタイルなのだが、これが本来のスタイルなのかどうかは不明。吉本興業主宰の演劇フェスで高い評価を得たということは伝え聞いていて、内容が気になっていたのだが、毒のある笑いなどの要素を強く感じる笑いの演劇といったところだろうか、展開の仕方には巧みな技巧を感じたが、今回のこのオムニバス3本立てという形式ではどうしてもコント臭を強く感じてしまい、面白いのは面白いのだが、演劇作品としてはどうしても少し物足りなさを感じてしまうことも確かだ*1
『サンセット』は最初何気ない先輩と後輩の職場での会話のように思われる。後輩が先輩に翌日行われるマラソン大会への参加を誘っている。これに対して先輩が断っているのだが、よくよく聞いてみるとそのやりとり自体がかなりおかしなものになっていて、思わずクスリと笑ってしまう。同じようなやりとりが何度も繰り返されるのだが、よく聞いてみるとその理屈自体がかなりおかしいものであることが了解されてくるからだ。例えばこんな風だ。後輩には彼女がいて、彼女はマラソンが好き。ゴールすることのそう快感をあなたにも味わってほしいからマラソンに一緒に参加してほしいと後輩を誘っている。
 後輩の男は一緒にマラソンに参加しても彼女は先に走っていってしまうのがみえみえなため、気が進まないが、先輩が一緒に走ってくれるならと先輩を誘うが、先輩は全然その気はない。「参加して」「参加しない」という言い合いになるのだが、ここで後輩が持ち出すおかしな理論に思わず笑ってしまった。彼は先輩が一緒に参加してもいいかというのを彼女に聞いて賛同を得た。だから「参加しない」は先輩ひとりの意見だが、「参加する」は後輩とその彼女の二人の意見であり、(民主主義的には)多数決をとれば2対1で「参加するということになるはずだ」というのである。よく考えてみればおかしな理屈だが、ネット上などではこのようなおかしな理屈もまかりとおっているなと考えたら思わず笑ってしまったのだ。ここに後からもうひとりの後輩が加わり、彼らの議論はより紛糾していくのだが、この作品のキモは彼らが本当は何者で何をしているのかが、後半になって分かってくるところであろう。さすがにネタバレとなるのでこれ以上は書けないが、こういうブラックともいえる結末に持っていくのがこの作家の持ち味なのだろう。
 これ以外の2作品も類似の構造を持っており、やはりそこが作家としての芯に当たる部分かとも思うが、並べてみると同型性の方に目がいくのも確かで、コント臭を感じると書いたのはそういうところもあるかもしれない。いずれにせよ、また他の作品も見てみたいとは思ったので、今度見るならもう少し長めの1本ものでどうなるのかが見てみたい。
 

作・演出:野村有志
こまばアゴラ劇場に初登場するオパンポン創造社は短編を繋ぐオパンポン★ナイトシリーズ!
上演を重ねてきた名作短編『サンセット』『てんびんぼう』の2作品に新作短編『bikeshed』の3本で紡ぐオムニバス公演。
静かな会話劇と狂気で騒ぐ悲喜劇を皆さんにお届けします。


2004年8月、野村有志による一人演劇ユニット・オパンポン創造社を旗揚げ。
全作品の脚本・演出を野村が務め、ペーソスと笑いを融合させ泥臭い人間模様を描くのを得意とし、会話劇を主としたストレートプレイで魅せる作品が支持されている。役者としても全作品出演。外部への出演や作演出、作品提供も多数。

出演
川添公二(テノヒラサイズ)、飯嶋松之助(KING&HEAVY)、伊藤駿九郎(KING&HEAVY/theatrePEOPLEPURPLE)、
成瀬遥(テアトルアカデミー)、殿村ゆたか(MelonAllStars)、野村有志

スタッフ
舞台監督 : 柴田頼克(かすがい創造庫)
音響 : 浅葉 修(Chicks)
照明 : 根来直義(Top.gear)
宣伝美術:勝山修平(彗星マジック)
制作:若旦那家康(コトリ会議/ROPEMAN(42))
制作協力:吉本興業

*1:これはコントを下に見ているともとられる表現であることに少し反省。「シティボーイズ」や「東京03」、そして一時期の故林広志など優れたコント作品は時として評価の高い演劇作品以上の価値がある。そしてオパンポン創造社の今回のオムニバスはコント台本と考えれば相当以上の秀作だと思う。