下北沢通信

中西理の下北沢通信

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KARASアップデイトダンスNo.82「春」変奏曲− 宮沢賢治 −(勅使川原三郎振付・演出)@荻窪アパラタス

KARASアップデイトダンスNo.82「春」変奏曲− 宮沢賢治 −(勅使川原三郎振付・演出)@荻窪アパラタス

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宮澤賢治の「春と修羅」をモチーフにした新作。前作「フローラ」は純粋に音楽とダンスのみによっていたが、こちらは全編に佐東利穂子の朗読する詩が響き続ける。

「春」変奏曲
一九二四、八、二二、
一九三三、七 、五、

いろいろな花の爵やカップ
それが厳めしい蓋を開けて、
青や黄いろの花粉を噴くと、
そのあるものは
片っぱしから沼に落ちて
渦になったり条になったり
ぎらぎら緑の葉をつき出した水ぎぼうしの株を
あっちへこっちへ避けてしづかに滑ってゐる
ところがプラットフォームにならんだむすめ
そのうちひとりがいつまでたっても笑ひをやめず
みんなが肩やせなかを叩き
いろいろしてももうどうしても笑ひやめず

(ギルダちゃんたらいつまでそんなに笑ふのよ)
(あたし……やめようとおも……ふんだけれど……)
(水を呑んだらいゝんぢゃあないの)
(誰かせなかをたゝくといゝわ)
(さっきのドラゴが何か悪気を吐いたのよ)
(眼がさきにをかしいの お口がさきにをかしいの?)
(そんなこときいたってしかたないわ)
(のどが……とっても……くすぐったい……の……)
(まあ大へんだわ あら楽長さんがやってきた)
(みんなこっちへかたまって、何かしたかい)
(ギルダちゃんとてもわらってひどいのよ)
(星葉木の胞子だらう
 のどをああんとしてごらん
 こっちの方のお日さまへ向いて
 さうさう おゝ桃いろのいゝのどだ
 やっぱりさうだ
 星……葉木の胞子だな
 つまり何だよ 星葉木の胞子にね
 四本の紐があるんだな
 そいつが息の出入のたんび
 湿気の加減がかはるんで、
 のどでのびたり、
 くるっと巻いたりするんだな
 誰かはんけちを、水でしぼってもっといで
 あっあっ沼の水ではだめだ、
 あすこでことこと云ってゐる
 タンクの脚でしぼっておいで
 ぜんたい星葉木なんか
 もう絶滅してゐる筈なんだが
 どこにいったいあるんだらう
 なんでも風の上だから
 あっちの方にはちがひないが)
  そっちの方には星葉木のかたちもなくて、
  手近に五本巨きなドロが
  かゞやかに日を分劃し
  わずかに風にゆれながら
  枝いっぱいに硫黄の粒を噴いてゐます
(先生、はんけち)
(ご苦労、ご苦労
 ではこれを口へあてて
 しづかに四五へん息をして さうさう
 えへんとひとつしてごらん
 もひとつえへん さう、どうだい)
(あゝ助かった
 先生どうもありがたう)
(ギルダちゃん おめでたう)
(ギルダちゃん おめでたう)
  ベーリング行XZ号の列車は
  いま触媒の白金を噴いて、
  線路に沿った黄いろな草地のカーペットを
  ぶすぶす黒く焼き込みながら
  梃々として走って来ます

 以前はダンサーである佐東が録音によるナレーションを入れるというやり方には違和感を感じており、詩の朗読であればセリフの専門家である俳優が生で朗読した方がいいのにと違和感を覚えていた。ダンサーである佐東の朗読はやはり専門家である女優が朗誦することの比べるとぎごちなさが感じられたし、演劇を専門の批評対象とする人間としてはBGMに録音された声を入れることにも抵抗があったからだ。
 ところが今回はそういう印象はあまりなく、むしろ言語テキストと身体言語が同じ人物により同時に表象されることのメリットの方を強く感じるようになった*1
 少なくともこの「春」変奏曲− 宮沢賢治 −は宮沢賢治の詩句と勅使川原三郎、伊東利穂子のダンスが対等な関係で切り結ぶことで言語とダンスが単独では届かない独自の境地を実現していたのではないか。興味深いのは言語テキストが物語としての筋立てがある小説やセリフが提示される戯曲ではなく、詩であることだ。この詩との切り結び方はこれまで勅使川原が制作してきた作品の中では劇や小説を下敷きとした演劇的な趣向が強い作品よりもバッハやモーツァルトなどの音楽と対峙した作品に近くも感じられるが、違うのは詩歌には意味性も伴っていることで、そしてこれは勅使川原が活動初期から取り上げてきてた宮沢賢治であるということの意味合いも大きいはずだ。

詩から春の突風が吹いてくる 激しい青い夢
黄色の地平線 水銀色の交響楽
銀河のはじが光って爆発し鳥が雨よりも激しく鳴き 
少女の笑いが止まらない 
詩篇春と修羅」の言葉が散乱するダンス 
新たな生命体を激しくまき散らす
勅使川原三郎


▶︎日程 2021年
4月8日(木) 20:00
4月9日(金) 20:00
4月10日(土) 16:00
4月11日(日) 16:00
4月17日(土) 16:00
4月18日(日) 16:00
4月19日(月) 20:00
4月20日(火) 20:00
*全8回公演

4/12,13,14,15,16は休演日

開演30分前より受付開始、客席開場は10分前。全席自由


▶︎劇場 カラス・アパラタス B2ホール

*1:観客の私がこの形式に慣れたということかもしれないが、伊東の朗読の技量が向上してきた可能性もあり、どちらであるかは判然としない。