下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ゆうめい『姿』再演@東京芸術劇場

ゆうめい『姿』再演@東京芸術劇場

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 三鷹芸術文化センターで初演したゆうめい「姿」*1の再演。2019年11月の初演では劇中で使われたモーニング娘。の「ハッピーサマーウエディング」のことが心に残ったと感想に書いたが、そのことは今回も変わらないもののそこまで印象は強くなかった。作品が私演劇的な性格を持ち、作者である池田亮が手掛けていた演劇以外の仕事がアニメとVtuberの台本だったわけだが、当時はこの舞台のために適当に作ったのではぐらいに考えていたのがいまやゲームにアニメに人気沸騰の「ウマ娘」のアフレコ収録場面だったんだということが、二年後の今やっと分かったからだ。「ウマ娘」といえば主人公は脚本家のひとりに過ぎないとはいえ、いまやマルチに展開されるアニメ・ゲーム産業の中核を担うものでもあり、同じセリフで「アニメなんか価値がない」と母親が否定しても、東京都で現代芸術振興の仕事を手掛けているらしい母親が息子の仕事の価値を知らないことが、今や本当にもの知らずで世の中に取り残された人という風になってきてしまう。
 Vtuberも初演時にはKIZUNA AIなどを通じてその存在を知ってはいたが、まだ現在のようには一般には普及しておらず、メディアについて珍しいものが好きな作者が使ったぐらいにしか思ってはいなかったが、父親がVtuberの女性キャラを演じる冒頭なども二年前ほどには物珍しくはないのだった。
 ゆうめいの池田亮はポストゼロ年代演劇以降の世代としては演劇スタイルとしてはオーソドックスであり、様式としての前衛性は感じない。自分の家族に起こった実体験を舞台に上げてしまう手法などはハイバイの岩井秀一の影響が大きいことは作品を見るだけですぐに分かる。ところが大きな違いもあって、この「姿」でいえばアイドル、アニメ、Vtuberなどのサブカル的な要素が本当に自然な形で作品の中に溶け込んでいることで、これは別に演劇のスタイルとして特別にこうした要素を活用しようというのではなくても、作者の実生活においてすでに「オタク系文化」が日常的なものとして存在しているからこそ、特別なギミック的手法としてでなくても必然として出てきてしまうのであろう。
 とはいえ、そうした要素は単純にオタク文化への嗜好にとどまっているだけではなく、モーニング娘。の楽曲は母親との記憶、「ウマ娘」の場面は競馬にのめり込んで生活破綻者となってしまっていた母親の父親の記憶と密接なつながりを持つような趣向になっている。
 虚構としての演劇に重きを置きたい私のような人間にとっては作者の実際の父親が自分役で舞台に立っているということへの意味合いをそんなに重要視はしたくないのだが「そうである」ということが間接的に観客の心理に与える効果というのは小さくはなくて、ラストシーンで父親が踊るけっして上手ではない「ハッピーサマーウエディング」に心を揺さぶられるのはそれが実際にもその人であり「いま・ここで」踊っているという事実と無関係とはいえないんだろうなと思った。

子が脚本・演出、実父が出演する、母と家族の歴史、待望の再演!
MITAKA “Next” Selection 20th」に選出され、三鷹市芸術文化センター星のホールにて2019年に上演された『姿』。
作・演出の池田 亮の体験と親族や周囲の人々への取材に基づき描かれる物語に、実父である五島ケンノ介が出演し話題となり、口コミで連日満員を記録、TV Bros.ステージ・オブ・ザ・イヤー2019に選ばれました。

その『姿』がこの度「芸劇eyes」に選出され、東京芸術劇場にて再び上演されます!
変化した2021年の出来事を新たに描きながら、実写・アニメ・YouTube問わず映像での活動により培った手法とドキュメンタリー的手法、演劇的手法を交えた演出の元、初演を作り上げたキャスト、スタッフに加え、今回から参加する新キャスト、スタッフとともに、家族の今までとこれからの物語を再び立ち上げます。

作・演出
池田亮
出演
石倉来輝(ままごと)、黒澤多生(青年団)、児玉磨利、五島ケンノ介、高野ゆらこ、田中祐希、中村亮太、森山ふみ(ニッポンの河川)、山中志歩(青年団)、遊屋慎太郎 
※50音順
初演キャスト
出演:森谷ふみ(ニッポンの河川)、高野ゆらこ、五島ケンノ介、石倉来輝(ままごと)、黒澤多生、児玉磨利(エンニュイ)、中村亮太(天ぷら銀河)、矢野昌幸、田中祐希(ゆうめい)、小松大二郎(ゆうめい)