しあわせ学級崩壊リーディング短編集#2(2回目・3回目)@神楽音
しあわせ学級崩壊はEDMの音楽に合わせてセリフを朗誦するというユニークなスタイルの劇団で、最近は毎年年間ベストアクトに選ぶなど注目してきたのだが、12月いっぱいで活動を休止、解散することを発表した。そのユニークなスタイルがどのように生まれてきたのかに非常に興味があり、現在noteで継続している連載で次の演劇作家としてインタビューすることができないかと考えていたのだが、どうやら解散後は演劇活動はいっさいしないということのようなので、それも難しそうで非常に残念でならない。しかも今回見た演目についてはすでに一度観劇していたので、演目・パフォーマーが変わったものを見ようと考えていたのだが、ほかの演目についてはすでにチケットが完売。当日券も出さないということだったので、同じ演目を再び見ることにした。さらにいえばこの日は普段はその場でラップトップの操作を行う僻みひなたがコロナ陽性で欠席となり、非常に残念なことではあるが、生オペではない上演となってしまった。
今回はしあわせ学級崩壊によるリーディングライブ第2弾。プログラムとして、僻みひなたのオリジナル音楽に触発されて劇作家4人が新作一人芝居を書き下ろしたDプログラムとそれぞれの音楽に合わせて選んだ4編の短編小説が4人の俳優により朗読されるCプログラムの2種類があるが、この日はDプログラムを見ることができた。
この企画は今回で2回目だが、キャリアこそ浅いが注目の個性派作家4人が顔を揃えたラインラップは魅力的だった。特にこの日見た演目はさまざまな異なる個性を発揮する癖のある俳優陣が顔を揃え、劇作家4人が繰り出したやはり一癖も二癖もあるテキストとバトルを繰り広げるような公演となった。
リーディング公演は第一弾*1は見ているが、その時の印象はあくまで自分たちの音楽に合わせたフレージングという独自の方法論を突き詰めていくための試演会という色彩を強く感じた。それは出演者が全員劇団員で、しあわせ学級崩壊の方法論にある程度習熟している俳優ばかりであることもあり、あくまでしあわせ学級崩壊のやり方で短編小説を読むとどうなるかを見せるという側面を強く感じたからだ。
だが、今回のDプログラム#2では俳優全員を劇団外から客演させるということをやってみて、音楽に合わせて、脚本のセリフを一字づつ譜割りしたようなやり方を通しても誰が演じるかによってかなり大きな違いがあり、さらにその違いが今回の4本ともにかなり強烈な個性を持つ脚本が引き出しているということを勘案してもしあわせ学級崩壊がやろうとしていることには私が考えている以上に表現の幅があるのではないかということが感じられて刺激的な経験だった。
特に面白かったのは佐藤すみ花による綾門優季の「蹂躙を蹂躙」。多重人格の殺人鬼である「私」が主治医を殺してから、病院の外で人を殺しまくるというとんでもない物語が複数の「私」のモノローグのような文体で綴られた戯曲を佐藤すみれは声優のアテレコのように多彩な声色を使い分け、演じてみせた。戯曲はそれぞれ音楽を聴いたうえで書き下ろすというのがルールだったのだが、これだけは例外で2019年の「第10回せんがわ劇場 演劇コンクール」で上演されたものの再演ということになるが、実はその時の上演がお世辞にもあまりうまく行ってないものとなってしまったために「上演困難」のレッテルを張られ、そのままお蔵入りしていたものを取り出してきたのだった。
その時の印象は次の通りに書かれている。
正直言って今回キュイが上演した「蹂躙を蹂躙」は普段から分かりやすい作品を提供することはしないキュイの作品の中でも難解な演出(演出は得地弘基)。エンタメ色を極限まで削り落としたような内容は観劇直後、「うーん」と考え込ませるようなものだった。参加劇団のラインナップを見て、キュイ以外にないでしょと思っていただけにもどかしい思いがした。さらにいえば客席を覆う空気が最近の若手劇団がよくまとうような舞台に対する違和感に満ち満ちていたことも上演の印象に影響を与えたかもしれない。
つまり「とにかく難解」というのが初演の印象だったのだが、今回のリーディング上演はでこれが僻みひなたの音楽・演出と佐藤すみ花の演技により、声によるアニメのようなエンタメ性の高い作品として蘇った。実は次の青年団リンク キュイの公演は綾門優季の戯曲をこの企画にやはり戯曲を提供した松森モヘー(中野坂上デーモンズ)が演出して行うことになっていて、それはとても楽しみではあるのだが、今回の企画を見て考えたのはいつか青年団リンク キュイの公演を僻みひなたの演出で見てみたいということだった。
それ以外の3本もそれぞれ違う個性を持って面白い上演だった。松森モヘーの「私は音楽になりたい」はセリフの音楽性を突き詰めた作品になっていて、ラップとは言えないのだけれど音に合わせてリズムを刻むようなセリフ回しが魅力的だった。池田亮の「かつて」はかつていじめを受けたオタクの物語で、よく考えたら池田の自画像みたいな部分もあるのだけれど、海田眞佑のいかにもいじめられっ子のようないらつくような演技と個性とも相まって悲惨さが逆に笑えるような作品に仕上がっていた。こうなると十分に変な設定なのに一番普通に見えてしまって割を食ったかもと思ったのは細川洋平(ほろびて)「しおのエクボ」だがいきなり綾門優季のような劇毒物を与えるのではなく、この作品からゆるゆると引き込んでいくというのにはいい作品だったかもしれない。
この公演には劇団員がキャストを務めるバージョンもあり、おそらくかなり違う印象なのではないかと思うのでお金的には厳しいのだが、なんとか見に行きたいと思った。
細川洋平(ほろびて)「しおのエクボ」=浅場万矢(柿喰う客)
松森モヘー(中野坂上デーモンズ)「私は音楽になりたい」=宝保里実(コンプソンズ)
綾門優季(青年団リンク キュイ)「蹂躙を蹂躙」=佐藤すみ花
池田亮(ゆうめい)「かつて」=海田眞佑(劇団ウミダ)
細川洋平( ほろびて )
松森モヘー( 中野坂上デーモンズ )
綾門優季( 青年団リンク キュイ )
池田亮( ゆうめい )
2022年9月25日(日)→10月22日(土)
於 神楽音