下北沢通信

中西理の下北沢通信

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寄宿生活塾 はじめ塾×東京デスロック「Anti Human EducationV ~Teens Revenge Edit.~」@神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

寄宿生活塾 はじめ塾×東京デスロック「Anti Human EducationV ~Teens Revenge Edit.~」@神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

寄宿生活塾 はじめ塾×東京デスロック「Anti Human EducationV ~Teens Revenge Edit.~」が神奈川・神奈川県立青少年センター スタジオHIKARIで上演された。東京デスロックが教育をテーマに創作する「Anti Human Education」シリーズの第5弾となる。東京デスロックの多田淳之介は2017年から神奈川県小田原市にある寄宿生活塾 はじめ塾で演劇のワークショップを行ってきたが、今回の公演はその成果をもとに多田が構成・演出を手がけ、生徒たちが制作・出演もした。
「Anti Human Education II ~TEENS Edit.~」のタイトルで昨年2・3月に上演予定だったが、コロナの影響で中止となっていたものを内容も一新、 「~Teens Revenge Edit.~」として上演することになった。
全体は授業を模した四部構成。1時間目が「面白い授業を受けたいチーム」、2時間目が「裁判チーム」、3時間目が「チーム This is me」、4時間目が「大人と話し合いたいチーム」」と4チームに分かれてそれぞれ趣向の異なる授業のような形式になっている。「面白い授業を受けたいチーム」のものはアルコールについての学ぶ化学の授業を素材に分かりやすく面白い授業と分かりにくくつまらない授業はどう違うのかをそれぞれの授業を再現することで考えてもらうという内容。
 「裁判チーム」は一種のゲームとして観客も巻き込み、「乗り物といえば」などの質問への答えをホワイトボードに書いてもらい、一致するように考えて答えるという場合と一致しないようにと考えてもらう場合でどのような違いが起こるのかなどを見せた。
 ホワイトボードを使用することで、観客席とのやりとりも作品には組み込み、観客も一緒に授業を受けているような感覚が共有できるように工夫していた。
 青年団平田オリザは各所で演劇によるコミュニケーション教育の一環としてワークショップを展開しており、青年団演出部所属の多田淳之介の演劇ワークショップもそうした内容に準じたものではあるが、今回は教育を主題とした演劇シリーズの作品としてそこから生まれた成果を単なる内部の発表会にとどまらずに公演として外部に公開、展開したのが面白い。
 東京デスロックはこれまでも「Anti Human Education」*1という表題で公演をしてきたが、それは基本的には演劇公演で、教育は主題とはなっていても俳優がそれぞれが自らの受けた教育体験を語ると役柄を演じることで、教育とは何かについて考えてもらうというものとなっていた。今回の公演は出演者である生徒に対しては演劇ワークショップを通してそれぞれのチームが発表内容を創作しそれを観客の前で披露するという「演劇体験」を経験してもらうとともにそれを見に来た観客は普段はそんな風なものだと看過してきた教育や授業のあり方について考える機会を作るという二重構造になっているのが面白い。そして、全員が素人である子供たちによる出し物を飽きさせぬように見せる手腕こそが演劇のプロの技だとも感じさせた。

2021年7月17日(土)・18日(日)
神奈川県 神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

構成・演出:多田淳之介
出演:寄宿生活塾 はじめ塾のこどもたち、東京デスロック、山下恵実