下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

映画「サマーフィルムにのって」@アップリンク吉祥寺(2回目)

映画「サマーフィルムにのって」@アップリンク吉祥寺(2回目)

f:id:simokitazawa:20210828094935j:plain
phantom-film.com

青春映画の中には部活ものというジャンルがあり、高校演劇を取り上げた「幕が上がる」*1をはじめ、アニメ(「映像研には手を出すな!」)、ブラスバンド(「劇場版 響け! ユーフォニアム~届けたいメロディ~」「スウィングガールズ」)、チア(「チア・ダン」)、書道(「書道ガールズ!! わたしたちの甲子園」)、男子シンクロ(「ウォーターボーイズ」)など様々な対象を描いてきた。「サマーフィルムにのって」で描かれるのは自主映画を撮影しようとしている仲間たちで、映画監督が映画を撮ろうとする若者たちを描くわけだから、似たような話はこれまでもいくつもあったとは思うけれど、この作品が面白いのはそれを遂行する中心人物が女の子であり、しかも撮ろうとしている映画が時代劇だというところにあると思う。
もともと、この映画に興味を持ったのは脚本を担当しているのがロロの三浦直之*2だったからだ。若手有望株と言われていた三浦もキャリア的には中堅作家の年齢に差し掛かりつつあるが、最近の縦横無尽の活躍ぶりには特筆すべきものがあって、ロロを中心とした演劇での活動はもちろんだが、ともにNHKドラマとして創作された『あなたのそばで明日が笑う 』『腐女子、うっかりゲイに告る。』は主人公の繊細な心のひだを見事に捉えた秀作で、映像においても注目すべき才能と考えていた。
とはいえ、今回の「サマーフィルムにのって」については「似たような話を最近見たばかりだったな」と思い出してみるとそれは「映像研には手を出すな!」であり、こちらの方は漫画、アニメが原作で実写に先行してはいるが、乃木坂46所属の 齋藤飛鳥 が主演、 同グループの 山下美月梅澤美波 も出演しているわけだから「偶然似ました」というのはどう考えても無理だろう。ショートカットの女の子が監督役(あるいはそういう役割)ということでも「サマーフィルム~」の伊藤万理華齋藤飛鳥を意識せざるをえなかっただろうし、監督と脚本家からは「意識した上で上を行ってやろう」という気概も感じた。
 とはいえ 両者には大きな違いがある。「サマーフィルム~」の主題が純愛であることだ。三浦の特徴はほとんどの作品で純愛を描いていること。それもいつも決して実らぬ恋でもある。そのことはこの映画を二回見た時により強く感じられた。ライバルでこちらは恋愛映画を撮っているリア充女子が登場し、主人公と対比されるのだが、この映画が面白いのはこのライバル役も主人公に劣らぬ映画マニアだというのが分かってくるくだりだ。彼女もリア充が映画も撮っているわけではなくて、好きな映画が恋愛映画だからそれを撮っている。ふたりは時代劇、恋愛劇と対象は違うけれどもともに映画が大好きな映画オタクなのだ。そして、ラストに向かって三浦節が爆発し、時代劇と恋愛劇そしてSFというこの映画を構成する三大要素がひとつのものとなり爆発する。このラストは三浦にしか書けない終わり方だと思った。
 それにしても伊藤万理華の演技がよかった。乃木坂のファンではないので伊藤の現役アイドル時代のことはまったく知らなかったのだが、月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」、月刊「根本宗子」第18号「もっとも大いなる愛へ」と根本宗子作演出の演劇舞台では見ていて、なかなか面白い個性を持った女優だと注目していたからだ。
この映画にはロロの人気シリーズで最近完結した「いつ高シリーズ」とよく似た空気感があり、映画を撮る高校生を描くという意味でもシンクロしている部分があった。この辺りの作品が好きな演劇ファンも必見だろうと思う。
そしてもちろんこの映画には青春部活映画というだけでなく、タイムスリップを主題としたSF映画としての側面もあり、ここにも様々な先行作品へのオマージュが込められている。もちろん、もっとも分かりやすいのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。ある役名からパロディー的趣向がバレバレだが、「ハインライン読んでるの」のセリフもあり、ここで読んでいるのは「夏への扉*3だろうか。「サマーフィルムにのって」とひとなつの話となっているのは「サマー・タイムマシンブルース」へのオマージュ も感じる。「時をかける少女」からの影響もあちこちにありそうだ。
そしてもちろん忘れてはならないのは往年の時代劇映画への熱い思いである。ここに少しでも嘘が感じられたら、映画はどうにもならなくなる危険を孕んでいるが、微塵もそんなことを感じさせない説得力が素晴らしいのである。

www.youtube.com

www.youtube.com

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:こちらは権利が取れなかったか「時をかける少女」と異なり作品名は読み取れない。