下北沢通信

中西理の下北沢通信

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勅使川原三郎振付・KARASアップデイトダンスNo.85「プラテーロと私4」@荻窪カラスアパラタス

勅使川原三郎振付・KARASアップデイトダンスNo.85「プラテーロと私4」@荻窪カラスアパラタス

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「プラテーロと私」はノーベル文学賞を受賞したスペインの詩人、フアン・ラモン・ヒメネス(1881-1958)による散文詩集でロバのプラテーロと詩人(私)の出会いと死別を描いている。公演の表題は「プラテーロと私4」ということだからこの作品を上演することは4回目となるが、私が見たのは初めてである。
勅使川原三郎振付作品としては異色。というのは勅使川原三郎は客席に背を向けて座り「プラテーロと私」の抜粋を朗読することに徹していて、とはいえそれがロバであるプラテーロに語りかけるという作品の形式を模していて、舞台には佐東利穂子のみが登場しプラテーロを演じるからだ。
最近の勅使川原作品はダンスアクトレスと評してもいい佐東の演じる才能を生かした演劇的な物語をダンスにした作品と音楽の構造などを抽象的ムーブメントとして純度の高いダンスにした作品の二つの作品傾向が並列されているのだが、文学作品という言語テキストを舞台上で生で朗読し、佐東はそれに呼応するように身体表現でロバのプラテーロの姿を演じるように動く。実はバレエの世界では「白鳥の湖」「瀕死の白鳥」あるいは実在の動物ではないけれどニジンスキーによる「牧神の午後」など人間以外のものとして踊るという伝統はあるし、太古の踊りは人間以外のものを演じて踊るという方がむしろ本筋だったようにも思うけれど、ダンス(舞踊)という時間軸で考えるとことさら珍しいことでもないが、文学作品が根底にあるとはいえ、コンテンポラリーダンスという枠組みで考えると異色作といっていいだろう。
 ただ見ていて感じたのは最初は「ロバを演じてるんだ」みたいな目で見ていたのが次第に命の輝きのような表現に「プラテーロってかわいい」などと愛着を覚えてくるという仕掛けがあり、その上でその死までが作品内で描かれることでなんともいえないせつなさを感じることになる。
 そして、ダンスについて考えさせられるのは最初はプラテーロの形態模写的な動きが多いのにところどころ佐東の身体はそこから離れ、飛翔しまたすぐプラテーロに戻ってくるということを繰り返し、ダンス的な要素と演劇的要素のせめぎあいがあるのだが、舞台が進むにつれ、プラテーロから離れる部分が増えてくる。そして、プロテーロの死を契機にして、佐東の表現は一気に何かの形態を表現するということから踊ることそのもののような純粋なダンス的表現に向けて一気に舞い上がっていく。そこには踊るということの喜びみたいなものが溢れているようにも感じられた。

勅使川原三郎 佐東利穂子



【公演日程】2021年

8月 26日(木) 20:00
8月 27日(金) 20:00
8月 28日(土) 16:00
8月 29日(日) 16:00
9月 2日(木) 20:00
9月 3日(金) 20:00
9月 4日(土) 16:00
9月 5日(日) 16:00

全8回公演

開演30分前受付開始、客席開場10分前

全席自由席、開演後の途中入場は不可

【劇場】

カラス・アパラタス/B2ホール

【料金】

一般/予約 3500円・当日4000円
学生/予約・当日 2500円