下北沢通信

中西理の下北沢通信

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アップデイトダンスNo.98「ビリティスの歌」(勅使川原三郎振付)@荻窪アパラタス

アップデイトダンスNo.98「ビリティスの歌」(勅使川原三郎振付)@荻窪アパラタス


2020年に初演*1された作品の再演。ダンスアクトレスとしての佐東利穂子の魅力が存分に堪能できる作品といってよいであろう。以下に初演時の感想を抜粋する。

「ビリティスの歌」というのはピエール・ルイスによる1894年発表の散文詩集。ビリティスは紀元前6世紀のギリシャに生まれた女性で、少女時代から死に至るまでの間に書き残した詩篇が19世紀になって発見された、ということになっていたが、これはルイスによるまったくの創作であった。
 「ビリティスの3つの歌」「ビリティスの歌(付随音楽)」「6つの古代碑銘」とクロード・ドビュッシーがそのうち3篇を歌曲に仕立て、その他にも付随音楽などを作曲している。勅使川原三郎の今回の作品ではこのそれぞれ別々に作曲されたドビュッシーの楽曲を1つの作品として再構成し、上演時間1時間の1本の作品に仕立て上げた。
 この作品では音楽に合わせて「ビリティスの歌」から抜粋されたと思われるテキストを佐東利穂子がナレーションとして朗読もしており、それに呼応したような形式で踊るため、二人だけで1時間踊り続けるような作品はバレエにはあまりないが、作品から受ける印象はきわめて古典的で前衛というよりは物語バレエに近い感触である。

 初演時にもニジンスキーによる「牧神の午後」のことを言及したのだが、冒頭の場面で横たわる勅使川原の姿勢が強く、ニジンスキーを思わせたことは今回も同じことを感じた。これは最初偶然かとも思ったが、下記の「ビリティスの歌」のライブ映像で見ると、歌曲集「ビリティスの歌」 は第1曲「パンの笛」からスタートしており、「牧神の午後への前奏曲*2とモチーフとして重なり合う部分が多く、横たわった牧神の描写からはじまるニジンスキー版「牧神の午後」*3を意図的に引用してみせたのかもしれない。
 白いドレスで妖精のように軽やかに舞う佐東利穂子は魅力的である。いつもはパンツルックで出てきて、中国武術のような鋭い動きを披露することも多い佐東だが、この作品では白いドレス姿でまるで宙を舞う妖精のように軽やかに舞ってみせる。こういう感覚を体現できるパフォーマーは優れたバレエダンサーには稀に存在するが、コンテンポラリー系のダンサーではほぼいないのではないか。勅使川原が優れた踊り手であることは論議することでもないのだが、最近の勅使川原作品では前に書いた「美加理詣」同様に「佐東詣」の楽しみが主となっているかもしれない。

「ビリティスの歌」
ピエールルイスが創作した存在しない女流詩人の半生
ドビュッシーが広げる数々の色彩音楽のベール
閉ざされた世界に身をよじる幻想のエロス
炎が無く冷たく燃えるダンス 決して朝が来ない深い夜

  • 公演概要-


アップデイトダンスNo.98
「ビリティスの歌」
佐東利穂子 勅使川原三郎

【公演日程】2023年
9月22日(金) 19:30
9月23日(土) 18:00
9月24日(日) 16:00
9月25日(月) 19:30
9月26日(火) 休演日
9月27日(水) 休演日
9月28日(木) 19:30
9月29日(金) 19:30
9月30日(土) 16:00
10月1日(日) 16:00

全8回公演

開演30分前より受付開始、客席開場は10分前。全席自由


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