下北沢通信

中西理の下北沢通信

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黒のショパン踊る佐東利穂子のソロダンス アップデイトダンス(演出 照明・勅使川原三郎 振付佐東利穂子)No.84「ノクターン」(夜想曲)

アップデイトダンス(演出 照明・勅使川原三郎 振付佐東利穂子)No.84「ノクターン」(夜想曲)

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佐東利穂子は近年ダンサーと並行して海外などで振付家としての仕事もスタートしていたが、コロナの流行に伴い中断を余儀なくされた。自ら振付も行いソロで踊るというこの「ノクターン」はしばらく中断していた自らの創作活動のリスタートといってもいいのかもしれない。
とはいえ、公演後の挨拶では勅使川原三郎の作品も自らが参加する作品に関してはここ最近は「自分の参加する作品においては勅使川原氏の指示のもとに自分の動きは自分で創作している」と語っている。ただ、受け身な形で作品に参加しているだけではないということであろう。実はそのことは今回の「ノクターン」を見ると逆説的に裏付けられるところがあるかもしれない。というのは以前に見た佐東のソロ作品では勅使川原にはないグラウンディング(床に寝転ぶ)ポジションが多用されるなど差異が強調された感があったが、この「ノクターン」では勅使川原三郎振付のデュオ作品とそれほど大きな差異を感じることがない一方で、ここ最近の作品では同じモチーフを踊るとしても勅使川原と佐東では動きの質感に違いがあるのではないかと継続的に感じていたからだ。
勅使川原三郎はその作品群において多くのクラシック楽曲のダンス作品化に取り組んできているが、数多く踊られていると記憶しているのはバッハとモーツァルト、最近ではドビュッシーラヴェルエリック・サティーなどが記憶の俎上に浮かび上がる。
複数の音楽家の作品をひとつの作品で使用されることも多く、ショパンを使っていることも皆無ではないとは思われるが、今回のようにメインにそれに取り組んだことはないのではないか。
それがなぜなのかは分からないが、これまでダンスクラシックにおいてショパンの楽曲が使用された歴史などを振り返ればフレデリック・ショパンピアノ曲管弦楽に編曲し、バレエ音楽にしたバレエ作品『レ・シルフィード』(Les Sylphides)など白いバレエのイメージがぬぐい切れないほど強いからかもしれない。少なくとも男性ダンサーがメインで踊る楽曲としては似合わない。
興味深いのは佐東利穂子が選んだ楽曲が「ノクターン」の連作であることで、これを佐東は黒い衣装で、下肢にはスカートではなく、パンツルック。さらに勅使川原三郎が構成した照明による夜あるいは闇のイメージを身体に纏いながら踊った。
 この作品を見て面白く感じたのはいつもは勅使川原三郎との対比もあってかエネルギッシュかつ若々しく感じさせることの多い佐東のダンスだが、この日は全体にグレーがかって見える髪色や衣装などとも相まって、女性としての年相応の年輪を感じさせたこと。それが作品の後半部において闇の中に浮かび上がる顔の表情や動きから勅使川原作品ではあまり見せることのない情感のようなものが感じられた。それはダンサーとして踊り続けることへの彼女の決意のようにも見えてきたのである。この作品は多くの女性ダンサーに見てほしいし、刺激を受けるダンサーも少なくないのではないかと思う。

音楽 ショパン
ダンス ソロ 佐東利穂子
演出 照明 勅使川原三郎
振付 佐東利穂子
劇場 カラス アパラタス/B2ホール

ショパン:夜想曲全集

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