下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ミレイの絵画思わせる 佐東によるオフィーリアの死 アップデイトダンスNo.90「オフィーリア」(勅使川原三郎振付)@荻窪アパラタス

KARASアップデイトダンスNo.90「オフィーリア」(勅使川原三郎振付)@荻窪アパラタス

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KARASアップデイトダンスNo.90「オフィーリア」は2年前に上演された作品の改訂上演である。「オフィーリア」とはシェイクスピアハムレット」に登場する悲劇のヒロインだが、原作である「ハムレット」の父王を殺した叔父クロ―ディアスの王子ハムレットによる復讐劇という本筋とはほぼ無関係に劇中で川に落ちて溺死し非業の死を遂げるオフィーリアに焦点を当てている。
 シェイクスピアによるダンス作品としてはバレエ作品から近年では様々なコンテンポラリーダンス系の作家によっても作品化されている「ロミオとジュリエット」が圧倒的に上演回数が多い。勅使川原三郎ももともと「ハムレット」として上演を試みたし、ワシリーエフ振付による「マクベス」のバレエ化*1などの例はあったようだが、「ロミオとジュリエット」ほどに人気作品となっていないのは、筋立てが複雑でクライマックスにもカタルシスを持ちにくいからかもしれない。「ハムレット」に関して言えば劇中劇の構造や主人公ハムレットの人物造形の複雑さなどいわゆる「ダンス」にはなりにくく、勅使川原三郎も以前自らがハムレットに扮して主人公を演じた「ハムレット」を制作したが、その後、ダンサーながら俳優のように役を演じる才能にもたけている佐東利穂子の魅力を引き出すためにも彼女をオフィーリア役として主役に据えた作品「オフィーリア」に改訂。今回はその作品を2年ぶりにリニューアルし再演した。

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ミレイ「オフィーリア」

佐東の衣装は白いレースで出来たフェミニンなもので、長い髪をたらしたミレイの「オフィーリア」に寄せたような髪形。佐東は普段は髪を編み込んでまとめていることが多いし、衣装もパンツルックであることが多いので、それだけで印象がかなり違ってみえる。
 冒頭の場面は絵のように横たわった体勢から始まり、途中は何度も水中でたよたう藻のような動きもみせる。オフィーリア狂乱の場を想起させるような激しい動きの場面もないではないが、イメージの基本的なトーンは「水」ではないか。オフィーリアの場合、人を演じるといっても「白痴」のナターシャのような意思を感じさせるものではなくて、自然か精霊のようにも見える演じ方。

以上が2年前の感想だが、基本的には今回もそうした印象は踏襲されている。ただ、ところどころに変更点はあるようだ。「冒頭の場面は絵のように横たわった体勢から始まり」と前回感想では書いているが、今回の舞台ではラストシーンはミレイの絵画のような上を向いて横たわった態勢となって終わるが、最初は上半身を起こした姿勢。そのため前回ほど最初から最後まで「死んでいる」という空気感を強く漂わせていうことはなく、いわゆるオフィーリア狂乱の場では生身の人間としての「生きているがうえの苦悩」を強く漂わせるものと感じた。
 勅使川原三郎の作品ではバレエなどと異なり、ダンサー同士の接触(コンタクト)がほとんどないのが特徴なのだが、この「オフィーリア」ではごく限られた瞬間だが、オフィーリアとハムレットは互いを求めあい触れ合う。しかし、完全に触れ合って抱擁するようなことはなく、互いが実態のない影の様な存在として、触れ合うことはできずに離れていからざるをえない。この舞台のオフィーリアから見るとハムレットは実体のない影の様な存在にすぎないのだ。

佐東利穂子 勅使川原三郎 

【公演日程】
1月 7日(金) 19:30
1月 8日(土) 16:00
1月 9日(日) 16:00
1月10日(月) 19:30
1月13日(木) 19:30
1月14日(金) 19:30
1月15日(土) 16:00
1月16日(日) 16:00
全8回公演

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