下北沢通信

中西理の下北沢通信

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失恋の巨匠、三浦直之がヒロイン桜井玲香で描いた実らぬ恋 KERA CROSS 「SLAPSTICKS」(2回目)@シアタークリエ

KERA CROSS 「SLAPSTICKS」(2回目)@シアタークリエ

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KERA CROSS 「SLAPSTICKS」2回目の観劇。前に見たときよりは舞台に近い席で前には見えなかった俳優の細かい表情などが見え、より作品に深く入り込むことができた。ケラの脚本と三浦直之の演出の相性はとてもいいと感じた。ここではサイレントコメディーということになるが、ここで描かれている当時の映画人の映画を作ることへの情熱を作品作りにおいてこの二人は強く共感していて、それが舞台に色濃く表れているのではないだろうか。とはいえ、そうした無償の情熱というのは現実にはいろんなことで裏切られてもいくわけで、ロスコー・アーバックルの裁判ひとつをとってみてもライバル会社MGMの広報担当を務める夫のために主人公の若いときに付きあっていたアリス(桜井玲香)が虚偽と思われる証言をしようとするのに遭遇する。
この作品がいいのは主人公が助監督時代の若い頃(木村達成)とその何年か後の中年の映写技師(小西遼生)になってからと二人登場し、サイレントコメディーの熱狂の時代が終わってから何年もたってそれを回顧するような構造となっていることだ。
 映写技師の方の主人公はなんとか埋もれてしまったロスコー・アーバックルの映画を復活上映してもらいたくと奔走しているのだが、サイレントコメディー全盛期の関係者の熱い思いを伝えるだけにとどまらず助監督としての挫折を含め、若い頃にかなわなかったことへの苦い思いもそこに重なることで、作品のイメージを単なる懐古趣味(ノスタルジー)にとどまらない深みのあるものにしている。
 そして、過去への悔恨を象徴する存在が桜井玲香が演じるアリスの存在なのだ。1回目の観劇の際、桜井玲香について「主人公の幼馴染で元恋仲であったが、別れた後、アーバックルを陥れる虚偽の証言をする女性アリスと言う難しい役柄を演じた。役としては単なるヒロインではなく、観客にどこかもどかしさを感じさせる役柄だけにこれもキャスティング的には冒険だと思われた」と書いたのだが、アリスが主人公の説得の後、結局裁判には現れなかったということが実際に起こった出来事ととしては示されるのだが、そういう選択をしたことについての彼女の思いは台詞とか劇中の場面ではいっさい示されないので、いろんなことが想像されて、ひょっとしたらいつの間にか別れて別の人と結婚したけど、本当は主人公のことをまだ好きだったのではないかなどいろんなことが想像されるが、それはあくまで主人公の回想というバイアスがかかってのことであって、本当はどんなのかが分からない。
 ここまで来て桜井玲香が出演して、三浦直之が演出した新海誠×三浦直之(ロロ) 恋を読むvol.3『秒速5センチメートル』@ヒューリックホール東京*1のことを思い出した。幼馴染たちの実らなかった恋を描いた傑作をとてもせつなく演じていた。ケラの上演ではアーバックルと映画への愛の物語としか思わなかったのだが、実らない恋を描かせたら絶品の三浦直之がそれに劣らぬ比重でこちらも描きたかったのかもしれないと気が付いた。そして、『秒速5センチメートル』もよかったが、桜井玲香が演じる永遠のヒロインはとてもいせつない。当たり役だったかもしれない。それにしても私は乃木坂46のファンではないし、ももクロのファンなのでむしろ仮想ライバル視している部分があるのだが、乃木坂は現役・OGともにいい女優がそろっている。出演する作品の選び方もとても的確なことには脱帽せざるをえない。演劇や映画はいい作品に出ないと意味が薄い。スタダも女優事務所なんだからもうちょっと頑張ってほしいのだが……。

【スタッフ】

作 :ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演 出:三浦直之(ロロ)

【キャスト】

出 演:木村達成 桜井玲香 小西遼生 壮 一帆 金田 哲(はんにゃ) 元木聖也 黒沢ともよ マギー 亀島一徳 篠崎大悟 島田桃子 望月綾乃 森本華 (以上、ロロ)


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