下北沢通信

中西理の下北沢通信

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批評する行為への批評にも見えた舞台。 ロロ「ロマンティックコメディ」@東京芸術劇場

ロロ「ロマンティックコメディ」@東京芸術劇場



ロロ「ロマンティックコメディ」@東京芸術劇場を観劇。「ロマンティックコメディ」という表題だが、いわゆる「恋愛」が主題であるラブコメディー(少女漫画などではラブコメと総称される)とはまったく異なる筋立てである。以前ロロの作演出である三浦直之を「失恋ストーリーの巨匠」と評したことがあったが、そういう意味では「喪失」という共通項はあってもそういう物語群とも違うカテゴリーであるといえそうだ。
 というのはこの物語がここには登場しない「すでに失われてしまった死者」を巡る物語だからだ。そして、すでに亡くなっている女性は物語の舞台となっているかつてカフェでもあってブックショップ(書店)に経営者の女性(森本華)と一緒に勤めており、この物語にはその妹(望月綾乃)も登場するが、姉の姿は直接描かれることはなく、彼女が残した一冊の小説を巡って、その作品を読んで語り合う人々の物語として展開していく。
三浦直之の描く作品世界*1では例えば谷川流の「涼宮ハルヒ」シリーズがそうであるように非日常系というか唐突にほとんどなんの説明もなく一見、日常的な物語世界に宇宙人のような非日常的なものが登場したりもすると指摘、アニメ・漫画的リアリズム、ゲーム的リアリズムがその背景にあるとしたが、この「ロマンティックコメディ」では随所に例えばこの作品でも言及される村上春樹がそうであるような寓話的というか、現実からは少しずれた空気感はあるけれど、以前のような完全に現実世界から逸脱した出来事は起こらない。
とはいえ、そうした非日常性の接点はある。というのは残された小説というのがロールプレイングゲームを彷彿させるような内容のライトノベルであるからだ。作品の仕掛けとして面白いのは不在の中心に亡くなった女性の死というのがありながら、作品自体はその死を直接描くことなく、小説を巡る物語になっていること。そして、「作品を読んでそれについて話し合う」という批評の原点のようなことを主題にしながら、故人と直接の面識がある店長と妹、ゲームでの対戦を通じて面識はあるが、実際に会ったことはないゲーム仲間(大場みなみ、大石将弘、新名基浩)、この書店に来てたまたま読書会に参加することになった男たち(亀島一徳、篠崎大悟)らとそれぞれ故人との距離感には違いがあり、それが小説へのかかわりにも違いを見せるということが描かれるのだが、これは三浦による一種の「批評を巡る批評」にも思えてくるのだ。そういう意味で描かれた小説が直接個人と関係がある私小説のようなものではなく、ライトノベルであるということはおそらく相当に重要で、ここには大別して小説を小説のテキストそのものとして物語として楽しむタイプの受容の仕方と小説をもとに作者の生きた現実を再構成していくような読み取りをするような受容の両方が描かれているのだが、最後にこの小説がかつて実はネットの小説サイトにもアップされていたことがあって、そこで作者のペンネームしか分からない状態で小説を読んでいた若い女性が登場するのが面白い。
 それまで描かれていたほかの人物が結局は多かれ少なかれ小説そのものより亡くなった作者のことを意識せざるをえないのに対し、彼女には小説は小説でしかなくて、作者と無関係に自立して受容されるのだということが示されるからだ。作者が死んだ後も小説は残り、生き続ける。
 ここで考えさせられるのは演劇はどうなのかということだ。もちろん、戯曲は作者から自立した文学的なテキストとして残り、存在し続けるが、演劇の上演自体は一回性のものだ。さらに今回のように作者自身が演出も手掛けて、劇場にもいれば観客は小説以上に作者と切り離して作品を受容することは難しい。
 これまでそういうことを明確に意識したことはなかったが、観客であり批評家でもある私は自分が批評するのが何なのかを考えさせられることになった。
 小説好きの三浦直之。架空の作家も登場するなかであえて太宰治村上春樹とともに綾辻行人の名前が言及されているのが大学サークルの同僚として嬉しかった。

ロマンティックコメディ
ロロの新作本公演!
 森本華[ロロ] :早川ひかり(ブレックファストブッククラブ 店主)
 望月綾乃[ロロ]:岬あさって
 大場みなみ:椎名となり

 大石将弘[ままごと/ナイロン100℃]:浦和寧
 亀島一徳[ロロ]:佐伯麦之介

 篠崎大悟[ロロ]:古池遠足
 新名基浩:藤井瞼
 堀春菜:浜辺白色

数年に一度やってくる移動図書館で開かれる読書会。「ブレックファストブッククラブ」のメンバーたちは、そのときにだけ集まって、長い時間をかけながらゆっくりと一冊の本を読んでいく…。

愛とか恋とは違う形でロマンティックを見つけたい。たとえばなんだろう。たとえば、読みかけの本を閉じて顔を上げたときとか。本を読む前の冬の日差しと、本の中の夏の景色と、本を閉じたあとに見上げた夜空が、混ざり合うほんの一瞬。そういう瞬間をたくさん集めて、物語を満たしたい。
日程
2022年04月15日 (金) ~04月24日 (日)
会場
シアターイース
作・演出
三浦直之
出演
亀島一徳 篠崎大悟 望月綾乃 森本華(以上ロロ)
大石将弘(ままごと/ナイロン100℃) 大場みなみ 新名基浩 堀春菜
プロフィール
ロロ
劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団。2009年結成。古今東西ポップカルチャーをサンプリングしながら既存の関係性から外れた異質な存在のボーイ・ミーツ・ガール=出会いを描き続ける作品が老若男女から支持されている。15年に始まった『いつ高』シリーズでは高校演劇活性化のための作品制作を行うなど、演劇の射程を広げるべく活動中。主な作品として、『はなればなれたち』(19年)、『四角い2つのさみしい窓』(20年)、『Every Body feat.フランケンシュタイン』(21年)など。『ハンサムな大悟』(15年)は第60回岸田國士戯曲賞ノミネート。

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