下北沢通信

中西理の下北沢通信

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オウム真理教をモデルにした集団描く群像劇。日本のラジオ「カナリヤ」@こまばアゴラ劇場

日本のラジオ「カナリヤ」@こまばアゴラ劇場

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日本のラジオ「カナリアオウム真理教がモデルで、教団の成り立ちや組織の内部の状況についてはまったくそのままではないにしても私のような当時を知る年代のものにとっては思い当たる節があるような描写がいろいろ描かれている。
オウム真理教事件は私と同世代の人間が起こした事件でありほぼ同時期に京都大学に在学した幹部がかかわっているなど個人的にも近しい出来事でもあった。だが、あれだけテレビなどでたびたび報道されたのにも関わらず、学歴も高く常識人でもあるはずの人々がなぜあんな事件を引き起こすに至ったのかはいまだに釈然としないところがある。
とはいえこの舞台ではそうした事件の顛末が直接リアルに描かれているわけではない。このカルト集団が引き起こした様々な犯罪的な行為はあくまで直接は描かれてはいなくて、教団幹部で教祖に近しい兄が最後に地下鉄サリン事件のようなことをこれから引き起こすのではという予感のみ示して物語は終了する。
雨が降ってもいないのに傘を持ってでかける。教団に出入りして厚生省(と呼ばれる教団内部の組織)の必要物資を外部から調達している元やくざの男から受け取った謎の包みを抱えているという二つの要素を提示されるだけでサリンの封入された袋にビニール傘を突き刺すことで猛毒の物質を地下鉄内に漏れ出させて、大勢の死傷者を出した事件のことを思い起こさせる。この事例もそうだが、「カナリア」における教団の見え方はあくまで一般信徒の目線からのものになっていて、事実をそのまま描き出したのではないにしても事件を引き起こした幹部ではなくて、一般信徒にとってはあの事件がどういうものだったのかということもこの舞台からは感じ取ることができて、興味深かった。
作者は関連サイトの作品説明で「20年以上前に存在して、今も残っているといえば残っている、とある団体をモチーフにしています。その団体がおこなった、あのとんでもない事件は、若い方にとってはもはや歴史みたいなものになってるかもしれません。ただ、せっかくなので、まさに現在のこの状況に寄せることもできるかなと思ってやってみます」とオウム真理教という固有名をいっさい出してない。やはり分かる人には分かるような書き方をしているのはモデルにしてはいるもののここで描かれている教団の描写は教祖についての描写などにおいて明らかに現実のオウム真理教とは異なる部分があって、他の新興宗教(頭の上に手を掲げるのは真光教から来ているか?)からヒントを得た要素もあり、現実と虚構を混同されたくないとの意識があるからとも思うのだが、本部への警察の一斉捜査の情報を前に何か手を打てないかと模索する場面などはオウム真理教事件を知っているのと全然知らないのとでは見え方かなり差異が出て来るかもしれない。

作・演出:屋代秀樹2015年初演作品の再演となります。本当は去年やろうとしてたんですが無理でした。20年以上前に存在して、今も残っているといえば残っている、とある団体をモチーフにしています。その団体がおこなった、あのとんでもない事件は、若い方にとってはもはや歴史みたいなものになってるかもしれません。ただ、せっかくなので、まさに現在のこの状況に寄せることもできるかなと思ってやってみます。
日本のラジオ代表 屋代秀樹

日本のラジオ
読み方は「にほんのらじお」。怪異、アウトロー、実際あった猟奇事件を下敷きにしたものをよくやっています。残酷な結末になることが多いですが、「観た後さわやかな気持ちになる」と言われることもあります。短編の場合は、怖くないけど奇怪なコントをやったりもします。シンプルな舞台演出、余白のある醒めたセリフが特徴です。淡々とした世界を、こっそり覗き見る感覚で観ていただけたらと思います。

出演

安東信助 田中渚 沈ゆうこ(以上、日本のラジオ)
木内コギト(\かむがふ/) 永田佑衣 宝保里実(コンプソンズ) 横手慎太郎(シンクロ少女)

スタッフ

舞台監督:黒澤多生(青年団
舞台美術:袴田長武(ハカマ団)
照明プラン:伊藤将士(株式会社ラセンス)
照明オペレーション:永瀬あさひ
宣伝美術:郡司龍彦